加藤忠一『ブリキとトタンとブリキ屋さん』

自費出版?)
 ここしばらく集中的に出かけていたせいもあって、思った以上に時間がかかったな。
 ブリキとトタンという二種類の鉄板をメッキした製品が、どのように利用され、利用法が近年どのように変化し、どのように変化していくかを描いている。ブリキ屋など、小規模な金属加工業の変遷を追っているのもおもしろい。いろいろと固有名詞を自分で調べるとおもしろそうだけど、返却期限が迫っているのがな。
 そもそもブリキとトタンがどのようなものか自体を知らなかったが、ブリキが鉄板をスズでメッキしたもの、トタンが鉄板を亜鉛でメッキしたものなのだそうだ。どちらも鉄の薄板をメッキしたことにより、そのままよりも耐食性の強い製品となり、様々な用途に利用されるようになった。それこそ「ブリキのおもちゃ」くらいしかイメージがなかったし、トタンが鉄板にメッキとか考えもしなかった。
 ブリキは14世紀に南東ドイツで素材の鉄板にメッキするブリキが発明され、近世にはいると主な供給元となった。18世紀にはいるとイギリスに技術が移入され、世界に供給するようになる。また、ブリキを黒く染めた「ジャパニング」、漆器様ブリキ製品も生産されるようになる。18-19世紀には、食器、台所用品、さまざまな容器類など、ブリキ製品が日用品として生産された。後には缶詰の缶、石油缶、王冠、飲料缶が主用途になっていく。缶飲料の出現って意外と最近なんだなというか、自動販売機の存在が前提だったのかと感心した。また、ブリキは、日用品ではプラスチック、飲料缶ではアルミ、缶詰ではレトルトパウチなどの新素材・技術によって活躍の範囲を狭めつつあるという。
 トタンは18世紀に入ってから出現した比較的新しい素材だそうだ。そもそも単独の金属としての亜鉛は、ヨーロッパでは16世紀あたりまで知られていなかったという。亜鉛と銅の合金である真鍮は、それそのものが一種の金属と理解されていたという。トタンは、「トタン屋根」というように、屋根ふき材、建材として利用されてきた。トタンは耐食性に優れていることが、風雨にさらされる建材として利用される要因だった。特に波板の生産によって、簡単に屋根を葺けるようになったことが大きいという。現在では、ガルバリウムにとって代わられつつあるが屋根材、プラスチックにとって代わられつつあるが樋、アルミにとって代わられつつあるがサッシやシャッターなどに盛んに利用された。現在、トタンの主用途は建築物のダクト類だというのが、興味深い。また、亜鉛メッキ素材ではあるが、トタンから進化した素材が、自動車や家電などに使用されているという。亜鉛をメッキしたあと、熱処理を行いメッキを鉄と亜鉛の合金化したGA鋼板が自動車のボディーに利用されるようになっているという。
 また、最後のほうでは消えてゆく「ブリキ屋」、板金加工の手工業を追っている。こういうのを調べるには、やはり文書資料よりも業界団体の編纂物や電話帳や工場名鑑の類じゃないといけないようだ。