松山利夫・山本紀夫編『木の実の文化誌』

木の実の文化誌 (朝日選書)

木の実の文化誌 (朝日選書)

 世界の各地をフィールドとする人類学者によって、人類がどのように「木の実」を利用しているかを、エッセイ風に書いた本。もともとは、雑誌に連載されていたものを、まとめたもの。日本列島から出発し、ユーラシア大陸の南縁を西に。アフリカ大陸を横断して、ユーラシア大陸の北側を、今度は東に。アメリカ大陸を南下して、太平洋を渡る、世界一周半の旅。
 人類が、わりあい最近まで、木の実にかなり依存していた姿。農耕社会になっても、副食材や調味料として、重要であったこと。熱帯や乾燥地帯など、それぞれの地域で、独特の利用法があるのが興味深い。乾燥地でこそ、木の実への依存が強いというが興味深いな。
 北上山地における自給食糧としての椎実、トチ、クリなどの利用と、その評価。沖縄の木の実の利用。キウイが中国原産で、20世紀になってから食べられるようになったとか。ヤシをはじめとする各種の木の実・果実類が、乾燥地の人類の生存を支えてきたとか。あとは、食べられるようにするための加工に、それなりの手間がかかるものが多いのも印象的。
 アムール流域のナナイや、アイヌ人、北西海岸インディアンが、調味料として、魚や海獣の油を利用するという共通性も興味深い。
 以下、メモ:

 この広大な砂漠が、かなりの人口の狩猟採集民を養っていることは、意外と知られていない。インド側のラージャスターンからマディヤ・プラデシュにかけてはこのような部族民が多い。パキスタン側のパンジャーブの南部にも、かなりの人口が居住する。なかでも、ビル族は広い分布を示す。
 インド亜大陸の狩猟採集民は、多様な資源をできるだけ広く利用することを生活の基本戦略にしているように見える。彼らは外部世界の人たちの利用する薬草や工作材料の採集、細工物の加工、販売などにも関わる。これらビル族のように、農耕や牧畜を行っていない人たちにとっては、砂漠に自生しているカイルやペルーといった野生植物の果実は、一年の一定期間それだけに依存して暮らすほどに、切実な意味をもつものなのである。p.106

 乾燥地だと、各種資源の年ごとの収穫量の変化も大きいだろうからな。リスクヘッジが重要になるのだろう。

 たとえばオリーブ。オードブルやサラダ、ピザなどでお目にかかる機会もあるが、どちらかといえば、日本人になじみが薄い果実である。その実からとる食用油も、独特の強い香りがあり、好まない人も多いようである。しかし、このオリーブはイタリア料理をはじめとして、北アフリカや東地中海地域の料理には、ふんだんに使われている素材のひとつである。ちなみにアラビア語では、食用油をザイトとよぶが、これはオリーブをさすザイトゥーンと同じ語源の言葉である。p.122

 本書は、1992年の出版だが、その時点では、オリーブ油ってあまり普及していなかったのだな。今では、普通に使うものになっているが。