水野一晴『世界がわかる地理学入門:気候・地形・動植物と人間生活』

 うーん、図書館から借りた本を、臨時休館の間に殲滅しようとしているのだが進捗が悪い。計12冊中、4冊目。12日までに処理できるのは、半分というところか。


 前から割と気になっていた本。図書館で見かけたので。しかし、入門ねえ…


 熱帯、乾燥・半乾燥、寒帯・冷帯、温帯という気候帯ごとに、植生の特徴や農業、社会情勢などを解説していく。アフリカをフィールドにしているのか、アフリカに関する記述が大きい。
 人類学畑の人かと思ったら、略歴をみると、自然地理、植生地理学が専門だそうで。Ciniiで検索をかけると、植物学、植生の変動といった論文が多い。


 第一章は熱帯のジャングルとサバンナ。熱帯収束帯の影響を受ける部分は、一年中上昇気流によって雨が降り、熱帯雨林が生長する。一方、それより緯度が高い土地では、熱帯収束帯の張り出しによって、夏に雨、冬に乾燥という降雨パターンになり、サバンナが発展する。アフリカの気候の変化の激しさが印象的。18000年前には、寒冷化によって砂漠が南下。熱帯雨林は、島状に残るだけになった。ゴリラの生息域は、この避難場所と一致し、彼らはそこから生息域を広げることができなかった。一方で、8000年前には、湿潤化が進み、サハラ砂漠は緑の沃野に。熱帯雨林も拡大。熱帯雨林も、数千年というスパンで拡大したり縮小したりする。
 あと、強雨で、土壌から細かい成分が流され貧栄養になりやすい。また、植物に覆われないところでは、鉄分や石灰分がしみ出して、硬い土壌になる。
 アフリカ大陸では人口増加で、森林の破壊が進んでいる。ザンビアでは、「民主化」に伴って、むしろミオンボ林の破壊が進んだというパラドックスプランテーションや嗜好品の生産とキャッサバなどの自給作物の生産の混合。狩猟採集民の生活。大都市への人口集中とスラムの発生など。


 第二章は、熱帯から緯度が少し上がった砂漠・乾燥地域について。著者のフィールドらしきナミブ砂漠が比較的多く取り上げられている。
 ナミブ砂漠では、沿岸は白くて、内陸は赤い。これは、砂粒子の含有する鉄分が、時間が経過するごとに酸化していくためであるという。海岸の砂は打ち上げられたばかりで白いが、徐々に錆び色で赤くなっていく。
 枯れ川沿いに点在する森林、そこを利用する牧畜民と砂漠ゾウの資源の奪い合い。一方で、現地住民は砂漠ゾウ目当てのツーリズムで現金を稼いでいるパラドックス
 農業に適さない降雨量が多いため、だいたい牧畜民か砂漠に適応した狩猟採集民がメインとなる。乾燥に強いラクダが重要。あとは、水を蓄えた植物の利用。
 欧米のトロフィーハンティングの規模のでかさも印象に残る。


 第三章は、寒帯・冷帯。北欧からシベリアにかけてのユーラシア大陸北部、アメリカ大陸の北部に広くあるほか、もっと南の地域でも、高地には冷涼な土地が散在する。氷河が作り出した地形が卓越する地域。
 冷帯には、針葉樹の純林が分布し、さらに厳しい寒帯ではツンドラが卓越する。
 農業や生活については、北米や北欧の農業、高緯度地域のイヌイット、そして、ヒマラヤやアンデスの山岳住民の生活が描かれる。特に、最後の山岳民の記述が厚い。氷河に土壌を削られた北欧や北米では、穀物生産に向かず牧畜が主な一次産業になる。また、盆地にはレスと呼ばれる風成層が発達し、ポーランドボヘミアなどの発達しやすい盆地は穀作地域となる。
 ヒマラヤやアンデスでは、牧畜が重要な生業となる。季節ごとに、高度を変えながらの移牧や冷涼な土地に適したジャガイモの生産などが主な生業になる。アルパカの毛が高く売れるとか。あるいは、森林資源の利用慣行や精霊信仰など。


 ラストは、日本も含む温帯。ヨーロッパは、メキシコ湾流のおかげでやたらと高緯度の割に温暖な生活を享受できている。一方で、冬は日照時間が短く、降雨も多く、非常にストレスが高く、夏の晴れ間に盛んに日光浴をする。屋外のカフェも賑わうと。ヨーロッパで、オープンカフェが可能なのは、風上の西側に大陸が存在しないのも大きいのだろうな。日本でやると、黄砂であっという間にガサガサに。そもそも、蒸し暑くて、4月くらいしか、外に居たくない感じが。
 あとは地中海性気候の南アフリカケープタウン周辺のケープ植物界の独自性と多様性の大きさ。あるいは、南北に長い日本列島の植生の遷移状況など。


 以下、メモ:

 ミオンボ林の中に熱帯雨林がパッチ(斑点)状に見られる場所がある。そのような熱帯雨林のパッチはどのようにしてできるのであろうか? 藤田知弘さんのマラウイでの研究によれば、ミオンボ林の中にイチジクの木があると熱帯雨林からシャローエボシドリがイチジクの実を食べるためにやってきて、そのときに熱帯雨林の樹木の種子を散布し、イチジクの木を核として熱帯雨林のパッチが拡大しているという。樹木の分布には、このように鳥などの動物による種子散布が大きく関わっている。p.28

 へえ。

 ちなみに、バカ・ピグミーは、近隣農耕民をゴリラの化身とみなしているという(大石2016)。人間としての農耕民の姿は仮のもので、死ぬと本来のゴリラの姿に戻ると考えているのだ。バカ・ピグミーは、身振りや振る舞い、興奮したときのうるささ、危険性から農耕民とゴリラの類似性を指摘する。たとえば、ふんぞり返って偉そうに歩く仕草が似ているとか、ゴリラのシルバーバックが威嚇する際に見せる胸を張る格好は、農耕民がバカ・ピグミーを見下ろすときの姿勢にそっくりだという。邪術を操る農耕民の危険さは、森で遭遇したゴリラの暴力性を連想させるという(大石2016)。p.85

 うーむw
→大石高典『民族境界の歴史生態学カメルーンに生きる農耕民と狩猟採集民』京都大学学術出版会、2016

 動物保護団体ヒューメイン・ソサエティー・インターナショナル(HSI)とヒューメイン・ソサエティー・アメリ支部が、米国魚類野生生物局がもつ輸入データを分析した結果、スポーツ狩猟家たちは、2005~14年までの10年間に、126万頭分のトロフィー(狩猟動物)をアメリカに輸入していたことが判明した(『ナショナル・ジオグラフィック』ウェブサイト2016年2月12日)アメリカに輸入されるトロフィーの原産地(2005~14年)は1位がカナダで50万8325個体、2位が南アフリカで38万3982個体と両国が飛び抜けて多く、3位がナミビアで7万6347個体だった。狩猟家たちがもっとも強い憧れを抱いているのがアフリカの「ビッグ・ファイブ」といわれるライオン、ゾウ、サイ、スイギュウ、ヒョウである。野生動物の個体数管理のためという説明のもとに、これほど多くの野生動物が合法的な趣味として射殺されているのだ。p.165-6

 なんかすごい数だな…

そんな現在の家屋でも冬には家屋が氷雪に覆われてすべて凍結してしまうので、下水道はない。川の上流や湖から取られた水を配水車が週に一、二回各世帯の貯水タンクに給水している。汚水や屎尿は各世帯のタンクにためられ、週に一回、汲み取り車が取りに来る。p.211

 北極は汲み便。凍結しちゃうから、水道が作れないのか。ちょろちょろ流しておけば凍らないというレベルじゃなさそうだしなあ。

 大谷侑也さんの最新の研究(大谷2018)によって、ケニア山やキリマンジャロ山麓の湧き水は、山頂付近の氷河が融けて地下に染みこんで山体に取り込まれてから、地下水として50年くらいかけて山麓に湧き出ているものであることが解明された。その湧き水を利用している山麓住民にとって、現在の氷河縮小は50年後に影響が出てくることになるのだ。p.258

 温暖化の悪影響が真っ先に発展途上国に出てくる、と。タイムリミット付きかあ。
→大谷侑也「ケニア山における氷河縮小と水環境の変化が地域住民に与える影響」『地理学評論』91-3,2018


 文献メモ:
荒木美奈子「コーヒーからみえてくるグローバル化とは:タンザニアのコーヒー生産農民の営み」小林誠他編『グローバル文化学:文化を越えた協働』法律文化社、2011
水野一晴編『アフリカ自然学』古今書院、2005
水野一晴編『アンデス自然学』古今書院、2016
水野一晴・永原陽子編『ナミビアを知るための53章』明石書店、2016
尾本恵市『ヒトと文明:狩猟採集民から現代を見る』ちくま新書、2016
山本紀夫編『アンデス高地』京都大学学術出版会、2007