三上修『スズメ:つかず・はなれず・二千年』

スズメ――つかず・はなれず・二千年 (岩波科学ライブラリー〈生きもの〉)

スズメ――つかず・はなれず・二千年 (岩波科学ライブラリー〈生きもの〉)

 スズメの生態を紹介する本。薄くて、簡単に読める。しかし、身近な鳥なのに、知らないことばっかりだな。つーか、巣を見つけるのが難しい。本書によれば、調査は早朝に行なうもののようだが、朝に弱い人間にはハードル高いな。昔は、明け方まで起きていることもあったが、最近はそういうこともないし。
 奇しくも、最近、我が家の周りには、20羽程度の群がよく飛来する。スズメと人間の距離感の微妙さがおもしろいよなあ。


 構成は、第一章が分類、第二章が生態、第三から五章が人間との関係、第六章が生息数、ラストが減っていくスズメとどういう関係を築くかという話。
 第二章のスズメの生態が興味深い。外見からは雌雄の区別がつかないとか、4月から5月が子育て期間とか、ものすごいすき間に巣を作っているとか、食べ物とか、かなりの距離を移動するとか。スズメが主に食べる餌は、穀類ないし雑草。虫などは、蛋白源が必要な雛に与えるためだそうな。
 住宅地では、100メートル四方の範囲に四つくらいの巣があるそうな。わが家の近辺でも、それなりに巣を作っていそうだけど、それらしいのを見たことないんだよなあ。
 どのくらい生き残るのかも興味深い。100個の卵のうち孵化するのが60羽、さらに2年目まで生き残れるのは6羽。6年後まで生き抜くのは1羽だそうで。なかなか厳しいのだな。


 スズメと人間の微妙な距離感も興味深い。スズメは、人間が生活する空間で生きている。人間を利用して天敵を追い払っているとか、人間が撹乱した空間が必要とか、そういうことなのかね。一方で、スズメは人間への警戒心も強く持っている。そもそも、つい最近まで、人間はスズメの最大の天敵で大量に駆除したり、食べたりしていた。しかし、近年は、人間による捕獲圧が低下したためか、人間への警戒心が薄れた個体も出てきているとか。東京では、人から直接餌をもらう「手乗りスズメ」が出てきているんだとか。


 第六章のスズメの生息数の調査と減少の原因を追究しているところも興味深い。
 秋田・埼玉・熊本で、巣の密度を調査、そこから日本全国のスズメの巣の数を推定、900万の巣があること。一つの巣あたり雌雄がいるので、倍の1800万羽の生息数が推測できるという。
 農業被害の被害額の趨勢や、駆除・捕獲数の減少、環境省の鳥類繁殖分布調査、鳥類標識調査などのデータを見ると、減少傾向にあるのは間違いないという。熊本市内の私の観測範囲内だと、特に減ったという感覚はないけど、熊本あたりは鳥類繁殖分布調査でも、たいして減っていないんだよな。瀬戸内海沿岸、中国・四国・紀伊半島の中山間地や、長野あたりでの減少が顕著に見える。人間の居住範囲の縮小が、スズメの生息域にも影響しているのだろうか。
 ある生き物が減少している理由を明らかにするのは難しいという。住宅の気密がましてスズメが巣をかける隙間がなくなった、餌が取りにくくなって雛が育たなくなった、コンバインの登場によってスズメが餌を取りにくくなったなどの要因が指摘されている。しかし、どの要因が大きいのかは判然としないと。

 スズメとイエスズメはともに、ユーラシア大陸の広い範囲にいます。このことから、もとは草地のような環境にいて、人類の農耕の伝播とともにこれら2種も広がったのではないか、と考える人もいます。文明が鳥の分布に影響を与えたというのは、とても魅惑的な仮説です。
 実際、現在でもそれを想起させる観察例があります。むかし、ロシアの東部にはイエスズメがいませんでした。しかし、シベリア鉄道の敷設によって、これまで荒野だったところに人が住むようになり農耕も始まると、イエスズメも一緒に進出しました。現在の日本でも、スズメがいない山林を開いて住宅地をつくれば、周囲の住宅地にいたスズメが移り住んできます。そういったことから類推すると、現在のスズメとイエスズメの分布が、人類の農耕の伝播によるものであるというのは、ありえそうな話です。
 しかし、順序が逆の可能性もあります。イエスズメやスズメは、人の農耕文化とは無関係に先に分布しており、後から人に寄り添うようになったのかもしれません。そんなことが簡単に起こるのかとお思いかもしれませんが、わりと短時間で起こります。ハクセキレイという鳥は、30年前までは、日本の街中ではめったに見かけない鳥でした。しかし、現在では、日本中のどこの都市に行っても繁殖しています。明らかに、近年になって都市に進出した鳥です。つまり、ある鳥が、人に慣れて人の生活圏で生息するようになるのにかかる時間は、数十年ほどの短い時間でよいのです。p.4-5

 どうなんだろうな。草原の鳥で、人間の撹乱環境に適応したのは確かなんだろうけど。
 ハクセキレイって、最近都市に適応したのか。