松山利夫・山本紀夫編『木の実の文化誌』

木の実の文化誌 (朝日選書)

木の実の文化誌 (朝日選書)

 再読。
 世界各地の人々の木の実との関わりを、人類学者や応用植物学者が、紀行文風に描いている本。元は、雑誌の連載だったそうな。
 全体の構成は、以下の通り。ぐるっと、世界中を一筆書きで。

  1. 東アジアの旅から
  2. 中国から東南アジアへ
  3. ネパール、インド、パキスタンの旅
  4. 西アジアから地中海へ
  5. アフリカの各地を訪ねて
  6. ヨーロッパのむらへ
  7. シベリア東部からサハリンへ
  8. 北アメリカ大陸への旅
  9. アンデスからアマゾンへ
  10. オセアニアの島じまからオーストラリア大陸



 それぞれの地域で、かかわりにバラエティがあるのがおもしろい。東アジアの木の実、東南アジアの果実、西アジアではヤシの木が重要で、ヨーロッパではベリー類。なんとなく、土地柄みたいなのが見えてくる。あと、特に、半乾燥地では、特定の時期に特定の木の実に依存する度合いが大きいのが印象的。


 日本では、北上山地の「シタミ」(ドングリ類)や栗、トチの実といった堅果食文化が興味深い。相当依存度が高かったこと。それは、本書執筆の時点でも、それなりに残っていたこと。ドングリ類や栗の依存度が高いけど、トチの実は豊凶の差がないのが大きかった。あるいは、栗は、甘いので長期間食べ続けると飽きるとか。あと、韓国でも、ドングリ食文化があるのだな。
 しかし、こういう木の実は、食べられるようになるまでの前加工の手間が大きい。品種改良された農作物が普及すると、やはりそっちに流れるのはよく分かる。


 中国は、様々な果実。五果と言われる桃李杏棗栗に、梅、リュウガン、レイシ、サンザシなど。南北の植生の差による、品種の分化。利用方法の違い。キーウィは中国原産なのに、注目されず、ヨーロッパで商品化された。最初は、観賞植物としてヨーロッパに導入されたというのが、おもしろいな。で、最初に商業栽培が開始されたニュージーランドが、相変わらず、今でもブランドだよなあ。
 東南アジアのトロピカルフルーツも楽しい。ドリアン、マンゴスチン、ランプタンにタマリンド。どれも食べたことないなあ。


 インド亜大陸では、印パ国境の大タール砂漠に、かなりの狩猟採集民が住んでいること。かれらは、カイルやペルーと呼ばれる木の実を利用している話が興味深い。
 アラブ圏に入ると、ナツメヤシやコビトヤシといったヤシ類が目立つ。あと、バルチスタンで様々に利用されるカフールの木も興味深い。


 アフリカでは、ザイールの熱帯雨林の事例が多く紹介される。熱帯雨林だと、多種多様な木の実が利用されるのだな。あとは、貿易に利用されたコーラ・ナッツの話。国を左右するほどの重要性があったと。


 ヨーロッパからシベリアの寒帯では、クルミが重要な木の実と。


 北アメリカでは、ドングリやマツの実を食べ、南アメリカでは見慣れない木の実がぞろぞろと。カカオやゴム、楽器に使われる木の実など、毛色の変わった話もおもしろい。
 オセアニアでは、パンノキに、パンダナス、ブニャ・ブニャなど。木の実の採集と加工が社会の中で重要な意味を持つ。メディアソテツのパン作りの手間が、自然の植物を食用に調製することの大変さを示す。あと、カシューナッツの果実部分だけ食べる話とか。


 以下、メモ:

 しかし、最近では、柿渋を自宅でつくることはなくなって、柿渋そのものを知らない人も多い。それでも都会地を離れて農漁村に出かけてみると、まだまだ家の隅や門口の菜園に、立派なカキの木が植えられている風景を見ることができる。小粒のカキの実がたわわに数珠なりになっているのに、採りもせず放置しているのは、それが渋柿だからそのままでは食べられないというだけのことではなくて、むしろ、自家用に柿渋をつくらなくなっていることによる。p.28

 柿渋って、実物を見たことないな。渋柿を植えるのは、干し柿用じゃなくて、加工品のためだったと。

 ナナイの食生活には調味料が少ない。塩はかつて貴重品だったことから使用量は少なく、そのためか、彼らはあまり塩分の強いものを好まない。また、ソースの類もほとんどない。強いていえば魚油がソースの代わりをする。その数少ない味を整える材料としてベリー類、クルミなどの堅果類、そして球根類などの特有の風味をもった植物性の食材が欠かせないのである。p.180

 だいたい、狩猟採集民って、あまり塩を使わないんだよな。イヌイットも、ゆでただけの薄味だとは、確か植村直己の紀行で読んだことがある。


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