富山和子『水の旅:日本再発見』

水の旅 (中公文庫)

水の旅 (中公文庫)

 なんか、ものすごく文章の背後に役所の気配を感じる。著者の旅行の案内に、しょっちゅう公務員が出てくるところをみると。略歴を見ても、審議会が多いし、便宜をはかってもらっていたのだろうか。
 あと、どこまで信用できるのかという問題も。それこそ、つい最近まで、あちこちにはげ山作りまくっていたわけだし、「森林を養うことの上に文化が築かれてきた」(p.179)とは無邪気に言い難いように思う。熱帯のようないったん植生がはがされると土壌が流れてしまうような激しい雨が降るわけではなく、大陸のように乾燥や寒冷で植物が育ちにくいということもない、植物の繁茂に有利な条件の土地であるからってだけで、人間の成果ではないのではないか。諸文明を森林を破壊する存在で、日本だけは森林を育てる「奇跡」を起こしてきたと言うところには、疑問符がつく。同様に、米と森林を、何の留保もなく結び付けてしまうのはどうなんだろう。
 一方で、あちこち足で稼いでいるだけに、エピソードはおもしろいな。砺波市のチューリップ、赤城山の植生変化でツツジが消えていった話、吉無田高原の植林、筑後川の満潮を利用した淡水の採取、鮎や鮭の人工河川による扶養、九頭竜川船橋、琵琶湖と日本海を結ぶ運河計画の話、鬼怒川上流の土砂ダムの話などなど。日本では、土砂ダムで川がふさがれて、その後崩壊で大被害っての多いんだな。
 琵琶湖と日本海を運河で結ぶ構想が古代から現れては消え続けたというのが、おもしろい。18キロなら、運河でつなぎたくなるのは、当然か。琵琶湖と日本海が近代的な運河でつながれていたら、なかなかおもしろそうなことになっていただろうな。ついでに、琵琶湖と大阪も巨大な運河で結ばれていたらとか、夢が広がりまくる。