新見志郎『巨砲艦:世界各国の戦艦にあらざるもの』

巨砲艦―世界各国の戦艦にあらざるもの (光人社NF文庫)

巨砲艦―世界各国の戦艦にあらざるもの (光人社NF文庫)

 ふと、読み返したくなったので。
 南北戦争のとき、優勢な北軍艦隊に対抗すべく建造された装甲砲廓艦ヴァージニアとそれに対抗して建造されたモニターから始まる、航洋装甲艦隊に低コストで対抗すべく建造され、進化の袋小路につきあたって消えていった船たちの系譜。航洋性を捨て、火力と装甲に特化したモニターの眷属、そして港湾防衛のために自走はしけに大口径砲を積んだレンデル砲艦。特に、重装甲・重火力のモニターに対して、初期の航洋装甲艦は対抗できず、問題になった。
 また、装甲艦に対抗すべく巨大化していく主砲を、どのように配置し、動かすかの試行錯誤。19世紀中葉の口径30-40センチクラスの前装施条砲ってのは、砲弾の装填から、砲の俯仰、砲塔の旋回まで、全部人力だったという。一時間に何発も撃てない。結果として、リッサの海戦にように、衝角が勝負を決める事態も発生した。どちらにしろ、帆船時代の「帆桁をかみ合わせて」から何歩も出ていない、近距離での射撃が想定されていた。航洋艦に大型砲を積む試みは、キャプテンの転覆という悲劇を生み、固定砲塔艦ホットスパーを生み出す。また、モニターの対策としては、ある程度の航洋性を持たせた、侵攻用モニター、デヴァステーションを生み出す。また、1870年代以降は、イタリアのデュイリオ、イギリスのインフレキシブル、フランスのテリブル級といった巨砲搭載艦を建造し、ここから前ド級標準戦艦へ発展していく。
 最終的には、魚雷の発達、そして速射砲の出現が、この種の一点豪華主義的巨砲艦の命脈を絶つ。予備浮力の少ないモニターは、魚雷を食らうとあっという間に沈む。また、防御力皆無のレンデル砲艦は速射砲にあっという間に撃破される。このような方向性を明確に示したのが、奇しくも、同じ日清戦争であるというのが興味深い。また、航洋性の必要性、さらに海戦のスピードアップ傾向も明瞭になる。これで、異形の面白艦艇の群れは存在価値をなくし、本書でもこれ以降に紹介されるのは、アメリカの時代遅れモニターの他は、対地攻撃用のイギリスのモニターやソ連の無反動砲搭載駆逐艦のような対地攻撃用の大口径砲搭載艦に絞られていく。
 ちょこちょことはさまれる、異形の船たちがいいね。特に米英が建造した衝角突撃艦、間違って砲門より大きな砲を積んでしまったアメリカのモニター艦パサイーク級、南軍の封鎖突破艦から日本に流れた甲鉄、ポポフ中将の円形砲艦たち、巨大な空気砲を積んだダイナマイト砲巡洋艦ヴェスビオス、ものすごい上部構造のフランス装甲艦オシュ。最後のは宮崎駿のアニメに出ていそうなディテール。あと、本書の船では、インフレキシブルが好きかな。この時代の軍艦は、非常に楽しい造形をしている。