『世界の艦船』2024/11号

 今回の特集は、アメリカのイージス艦アーレイ・バーグ級とその準同型艦をメインとするお話。個人的には、むしろ「世界の艦船フォトミュージアム」のフランス装甲巡洋艦群と「アメリ水上機母艦発達史」が興味深いかな。
 19世紀末から20世紀初頭の、タンブルホームで甲板が狭くて不便そうで、やたらと長くて、煙突がいっぱいの装甲巡洋艦、ホント好きなんだよな。実用性とか問題じゃなく、ロマン。


 バーグ級、アメリカが山程こさえているけど、他に取り入れたのは日本と韓国だけなんだよな。まあ、両国ともそれなりの数建造しているから、バサン級スタイルより多い感じだけど、なんかあっち系のほうが普及しているように感じる。日韓の準同型艦が全長が長いのも印象的。
 あと、日本のこんごう級、もう30年選手なんだよね。巻末の概算要求のニュースでもこんごう級代艦の研究の予算が要求されているし、そろそろ寿命ということか。ベースラインが古いイージスシステムは、ハードウェアと紐付けされていて、性能向上も難しいらしいし。


 最初は香田洋二「イージスシステム開発史」は、イージス前の話。ソ連の経空脅威増大に対し、テリア、タロス、ターターの3Tミサイル軍は同時対処能力の限界が明らかで、タイフォンシステムの開発が行われる。しかし、10年の苦闘の末に開発中止に。なんか、レーダーマストが円錐形に丸いルネベルクレンズ4個と、なかなか珍妙な恰好だなあ。そして、それを乗せて試験したのが、元水上機母艦ノートンサウンド、と。
 システム開発の教訓を元に、まずミサイルがスタンダードミサイルとして改良。その後、防空システムとしてのイージスシステムがこれまたそれなりの時間をかけて開発される。


 その後は米日韓のアーレイ・バーグ級の話。イージスシステムが、ハードウェアと切り離されて、武装の柔軟化や搭載コンピュータの自由度が増す方向に進んでいる、と。あとは、日本のイージス艦の装備がアメリカ側に寄っていく状況とか、韓国の独自武装てんこ盛りが任務の幅の広さの反映であるとか。
 準ファミリーと称したイージス艦の紹介も印象的。ハードウェアの縛りから解放されて、防空艦の枠を外れた艦が計画されている感じか。今計画されている艦では、SPY6やSPY7などの割と小さいレーダーアレイが装備されているのが印象的。スペインやオーストラリアが増勢に、カナダやドイツもイージスシステムを導入した艦を検討中。あとは、アメリカのフリゲートコンステレーション級の話。なんか、設計が完成していなくて、建造が遅延、経費増加って。アメリカ海軍は、冷戦後、順調に進んだプロジェクトないんじゃね。
 中華イージスのお話も興味深い。中国側の、アメリカや日本の対艦ミサイルによる飽和攻撃を危惧している、と。たしかに、空自あたりはそういうドクトリンがあるそうだし、そりゃ、備えないといけないよなあ。あと、中国に西側の技術が輸出された時代もあるけど、結局、中国やロシアの体制と西側は共存できないと考えるべきなのかねえ。デタントは一時しのぎ。


 宮永忠将「アメリカの水上機母艦」は第二次世界大戦アメリカの水上機母艦の話。緒戦期に水上機水上機母艦を活用した日本とは逆に、後半、島嶼侵攻作戦において、いち早く航空機を進出させるために有効であった、と。
 浅海域で運用される小型水上機母艦と大型の水上機母艦の二本立てで整備が行われた。前者は、旧式掃海艇やフラッシュデッカーを改造したものから、新規建造のバーガネット級30隻へ。哨戒飛行艇を支援する大型水上機母艦としてはカーティス級、カタリック級から始まって、商船改造の水上機母艦が整備されている。総計67隻の水上機母艦が投入されているのか。
 佐久間俊「艦艇の主要寸法・重量・容積に関する調査」は、連載1回目を未見なので、どういう意図の連載なのか分からない。いろいろな数値について、だいたい一定の範囲に収まるのだな。
 「名艦クライマックス」は、特攻機桜花の初戦果となったサムナー級駆逐艦マナート L.エーブルを取り上げている。


 写真ページだと、第二次世界大戦のモノクロ写真がおもしろいな。フランス装甲巡に加えて、「帝国海軍雑記帳」の1926年度演習の長門のディテールとか、「思い出の日本軍艦」の昭和13年の上海?における水雷艇千鳥のディテールとか。駆逐艦の砲の後ろ側って、こうなってるのね。
 イタリア装甲艦「デュイリオ」もえもいわれぬ良さ。


 カラーだと、今年はあちこちから軍艦が来ているのが興味深い。特にイタリア、空母カブール、ミサイルフリゲートアルピーノ、練習帆船アメリゴ・ヴェスプッチと見応えのある船が。特にアメリゴ・ヴェスプッチ、外形もだけど、船橋の無理矢理電子機器を配線している状況とかも印象的。
 あるいは、ドイツの難産だったフリゲート、バーデン・ビュルテンベルク。まあ、実際、高速揚陸艦だよね。
 オーストラリアで、原子力潜水艦の運用教育を行っている米潜水艦母艦エモリー S.ランド、クラシカルなスタイルがいいなあ。