岡部いさく『いさくの艦艇モデルノロヂオ』

いさくの艦艇モデルノロヂオ

いさくの艦艇モデルノロヂオ

 なんとなく、著者の名前で借りた本。「モデルノロヂオ」って模型関係の話かと思ったら、全く関係なくて、エスペラント語考現学という意味なんだそうな。よく見ると、表題にもちっさく書いてあるな。
 イカロス出版の『Jシップス』誌に2014年から2018年にかけて掲載された、現在の日本周辺の海軍の状況について書いたコラムを集め、その後、2018年末くらいの状況をアップデートコラムとして付している。
 第一章「日本周辺のできごと」、第二章「各国の主力艦を見る」、第三章「“空母”が海に与えるもの」、第四章「現代上陸戦の要石 揚陸艦」、第五章「潜水艦のことを考えてみる」、第六章「平成末期の艦艇考」の6章に分けて、27編のコラムを割り付けている。日本周辺の海軍情勢が主題だけに、海自、米海軍、中国海軍の記事がメイン。最初の方は2014年の記事だから、大分時間の経過を感じるな。
 2018年末だと中国海軍の躍進以外の何者でも無かったが、2019年になって空母の建造の延期が重なってスピードダウンした感はある。


 去りゆく感が印象的。
 フィリピン海軍のフリゲート「ラジャ・フマボン」、米海軍から全艦退役したオリバー・ハザード・ペリーフリゲート、事故沈没したアルゼンチン海軍の潜水艦「サン・ファン」など。
 ラジャ・フマボン、2018年に退役したのか。永久に現役であって欲しかった。アメリカが大戦中に建造した護衛駆逐艦が、海上自衛隊を経て、フィリピン海軍に就役。30年近く活動したのか。後継艦のハミルトン級カッターも、もう半世紀前の艦なんだよね。次は、新造艦を導入する予定らしいが。
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 O.H.ペリー級、個人的には割と好きな船。あの、微妙に弱そうな艦容がなんか良いんだよな。米軍では、さすがに退役だが、中小国では防空フリゲートとして割と使い勝手がよさそうということで、各国に売却されていたりするが。
 そして、サン・ファン号。沈んでいる姿が確認されたが、結局、原因はなんだったんだろうな。シュノーケルから海水侵入という時点で致命的だったのだろうけど。


 情報収集艦の話もおもしろい。なんか、ソ連や中国のイメージだけど、フランスやスウェーデンノルウェーなども持っているらしい。情報収集艦は、無害通航アウトなのか。
 スウェーデンのオリオンが、なんかすごい。
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 急激な中国海軍の増強、それに対応する米軍といった感じかな。
 空母機動部隊が西太平洋を留守にできなくなった。そして、新型艦船が配備される。ここのところ、『世界の艦船』を買っては積んでるので気づいてなかったけど、新型強襲揚陸艦アメリカが、いつの間にか日本に配備されているのな。これで、F-35を運用できる艦が太平洋に現れた、と。これに水上戦闘艦も加えて、揚陸艦隊のプレゼンスが上昇。
 第三艦隊と第七艦隊が、それぞれ別の作戦を担当する方法の模索といった話も興味深い。
 機動揚陸プラットフォーム「モントフォード・ポイント」、8万3000トンもあるのか。要は、LCAC用洋上桟橋。潰しのきかない船を贅沢な。3番艦以降は、航空機運用能力や居住施設を増強して、特殊部隊の海上基地的に使えるようにするらしい。まあ、そのくらいの潰しがきかないとねえ。そもそも、対艦弾道ミサイルで一番狙われるのは、こいつなんじゃなかろうか。
 こういう船、大好物なんだけどね。
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 書き下ろしのラスト二本がおもしろい。
 最初は、いずもへのF-35搭載に関する「F-35B母艦化する『いずも』その役割を探る」は、同機を搭載可能にされるいずも級DDHの話。本書刊行後に、35億円程度で、とりあえず発着能力を整備することに決定。本格的に大改造する前に、とりあえずテストって事なのかねえ。アメリカに対して同盟として提供できる戦力を構築する、ショウ・ザ・フラッグの船として、たとえ運用能力が低くても有用と。
 二本目は中国海軍の増強ぶりを扱う「脅威度を高める中国海軍」。いや、ほんと数年でとんでもない数を建造してきたもんだよなあ。しかも、そのやり方も合理的。空母機動部隊を整備したあとは、潜水艦の本格的増強に動くのではないかという観測。ただ、中国は空母の建造スケジュールに遅れが出てきているようだけど。
 つーか、核兵器に、戦闘機に、陸戦兵器に、海軍にと、どこもかしこも近代化に金を突っ込んでるけど、どこにそんな金があるのかねえ。日本と比べても、そんな隔絶したGDPじゃないのに。


 オランダ海軍のデ・ゼーヴェン・プロヴィンシェン級のBMD艦化への模索。あるいは、オーストラリアの新潜水艦の話題なども、興味深い。つーか、オーストラリア、潜水艦の自国建造とかを要求しているけど、また、コリンズ級みたいに不具合連続になるんじゃなかろうか。耐圧殻の溶接とか、どうすんだろ。