大分市歴史資料館『森羅万象に遊ぶ:江戸の科学と好奇心』

 展示会の図録。通販で入手したもの。タイトルの如く、江戸時代の視覚文化やそこから深まった科学、そしてそれが応用された「遊び」の世界が紹介される。江戸時代の文化の「遊び」志向というのが興味深い。人口的に限界に達していた当時の列島社会において、機械や技術を産業に導入しようというインセンティブがはたらかなかったというのは大きいのだろうけど。廉価な人件費でカバーできるなら、リスクのある投資を行なって機械化する必要もない。
 一方で、「遊び」としてからくりなどの技術が蓄積され、それが明治以降の近代化の過程で、産業機械に応用されていく。からくり儀衛門から東芝への発展や、ガラ紡など、からくりや在来技術の応用の事例はいくらでも指摘できる。


 全体は三部構成。第一部は「写生の系譜」ということで、対象の観察に重きを置いた沈南蘋や蘭画の紹介。
 第二部は、「みつめる」というテーマで、本草学の発展、人体解剖などの医学の発展、測量や天文学、三浦梅園や帆足万里など地方の学者を紹介。しかしまあ、シーボルトの時代でも、瀉血治療なんか実際にやっていたんだな。19世紀あたりの医学って、どの程度有効だったのやら。
 第三部は「からくり」。機械的なものだけではなく、視覚的なトリックを使ったものの比重が高い。レンズを通して仮想現実を見るからくり、だまし絵や判じ絵、そして、からくり人形など。