山下昌也『大名の家計簿:“崖っぷち”お殿様、逆転の財政改革』

 財政再建に成功した藩が、どのような対策をとったのかを紹介する新書。まあ、さくさくと読める本。正直、深みにかけるとは思うが。
 こういう、成功例を知ると、むしろ大失敗したところはどうなっていたんだろうなという気がしてくる。財政再建には成功しているけど、むしろ、どこも悪政の藩って感じだな。会津藩の百姓の統制とか、かなり現代的視点からは感じ悪い。庄内藩や相馬藩なんかも、かなりアレだよなあ。
 庄内藩については、内容に矛盾があるような。潰れ百姓が続出する中で、「庶民」が華美に流れるってどういう状況なのだろうか。


 「藩の商法編」にしろ、「大商人・民間人登用編」にしろ、その主眼は、大坂資本からの独立にあるように見えるな。直接、江戸などの消費地と取引。中間マージンや各種の金融サービスの利益を、自分のところに取り込む。「半周縁」への昇格を狙った改革。
 一方で、熊本藩なんかは、米モノカルチャー化を推進し、積極的に大坂資本に従属する「周縁」化の改革が行われた感が。むしろ、熊本藩のやり方が一般的だったのではなかろうか。


 備中松山藩山田方谷が、なんかすごいな。「利は義の和なり」とかは、近代経済学の思想にも通底しそうな感じだな。あとは、大資本家本間家に全部お任せの庄内藩酒井家とか、日田の資本家広瀬久兵衛におまかせの大給松平家とか。
 相馬藩の財政再建は、単純に気候に支配されただけのような気もする。