渡辺洋二『彗星夜襲隊:特攻拒否の異色集団』

彗星夜襲隊―特攻拒否の異色集団 (光人社NF文庫)

彗星夜襲隊―特攻拒否の異色集団 (光人社NF文庫)

 沖縄戦前後、海軍が特攻に傾斜していく中で、ほとんど唯一、夜間爆撃によって空母を撃滅しようと試みた芙蓉部隊の姿を描く。
 本書は、実際に前線でとんだパイロットへのインタビューが主な材料だから、見えにくいけど、実際は早い段階から、かなり期待をかけられていたんじゃなかろうか。評判はあまりよくないとは言え、彗星がガンガン供給されているし、パイロットや燃料も困った様子がない。軍中央に支援者がいたんじゃなかろうか。戦闘機での343空みたいな位置づけだったのではなかろうか。
 最終的には、島嶼の目論見の空母撃滅ではなく、沖縄の米軍飛行場攻撃が主な任務になっている。また、九州南部の基地から、沖縄本島まで進出するのは、航法や航続距離の面で相当厳しかったことが紹介される。だいたい、出撃機の半数がトラブルで引き返して、実際に攻撃をできたのは、一度には5機以下というのが、日本の限界を示しているようで悲しい。1000キロ近く進出する必要があったという点で、日本列島での戦いにも関わらず、アウェイだったのだな。
 ロケット弾や光電管爆弾などの特殊な爆弾を使っているのも興味深い。
 冒頭のフィリピン航空戦の再末期の姿とか。夜戦部隊が襲撃機として利用されていた状況。セブ島が前進拠点だった。あるいは、ルソン島への米軍上陸後のパイロットの撤収作戦とか。つーか、整備員なんかの地上勤務者は、どうなったんだろうな…


 以下、メモ:

「必死尽忠の士が空をおおって進撃するとき、何者がこれをさえぎるか!第一線の少壮士官がなにを言うか!」p.106

 これ、本当にこういわれたのだとしたら、かなりアレな話だよなあ…

 しかも、艦隊司令部で論陣を張って、特攻攻撃を拒否している。三航艦も五航艦も全力特攻が基本方針だから、鹿屋での夜襲作戦に失敗すれば、待ってましたとばかりに芙蓉部隊は特攻用に振り向けられてしまう。これを避けるには、非情とも思える出動を指揮し続け、成功させる以外にない。みずから作り上げた夜襲隊のノウハウは、当然ながら少佐自身が最も理解しているから、万事に目を配らねばならない。“司令兼飛行長”の重責を担う少佐は、以後じりじりとやせていく。p.138

 ストレス大きそうだなあ…

 陸海軍合計三〇〇機もの特攻機をくり出して、楠正成の紋所と湊川の決戦にならった菊水一号作戦は始まった。沖縄の第三十二軍から五航艦にもたらされた視認戦果報告は、戦艦二隻轟沈をはじめ、実に六九隻撃沈破という驚異的な数字(実際の米海軍在籍艦艇の喪失・損傷は駆逐艦三隻、揚陸艦一隻、給弾艦二隻沈没など計三四隻にのぼる)だった。p.148

 戦果報告の誇大さとか、実際に与えた損害とか。これを多いと見るか、少ないと見るか。しかし、特攻で大型艦、特に空母を撃沈ないし撃破するのは、本当に難しかったのだな。普通の攻撃でも難しかったとは思うが。