- 作者: 野澤千絵
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2016/11/16
- メディア: 新書
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熊本でも、既に人口減少が始まっているのに、第二空港線沿いとか、東バイパス沿い、西側、北側と、市街地の拡散が続いている状況。正直、異常だよなあと。問題なのは、野放図な拡大に、かなりの税金が投入されてしまっている状況。
あと、デフレ脱却を考えるなら、バブルあたりまでに買わせた自宅の価値下落を食い止める必要があるのではなかろうか。需要は頭打ちで、ガンガン新築住宅が供給される状況は、既存ストックの価値を破壊していく一方なわけで。土地建物の流動性が上がれば、それを老後のあてにできるわけで。
第1章は、住宅の過剰供給が続く現状の紹介。湾岸部のタワーマンション、川越市を事例とした郊外へのスプロール的拡大、サブリースによる賃貸アパートの大量供給の問題が紹介される。
タワーマンションによる世帯数拡大に対して、学校の建設が追いつかないとか、こういうインフラのコストは開発業者が負担するべきだよなあ。いろいろと、コストを外部化しているから、マンションはペイする。また、タワーマンションは補修や解体など維持管理のコストが跳ね上がる一方、住民の数が多く、階層差も大きいため、合意形成ができず管理不全に陥るリスクが指摘される。そもそも、「区分所有」という方式自体に問題があるようにも思えるな。
市街化調整区域の規制緩和や賃貸アパートによる、農地の宅地化が進んでも、人口は増えないという話。せいぜい、近隣市町村からの奪い合いにしかならない。しかも、都市計画税などの負担の少ない外延部の住宅の価格競争力が高くなるため、既成市街地の開発意欲も低下する。賃貸アパートにいたっては、クローズアップ現代で取り上げられた羽生市では、人口減少さえ起こっていると。
第2章は、住居とインフラの老朽化問題。団地やマンションでは、住民がいっせいに入居して、いっせいに老いていくため、空き家問題が深刻になると。自治会や地元の不動産業者が対策に乗り出しても、相続人さえ分からない土地もあると。なんか、本当に不明の土地なら、占拠して、時効取得とかできないのかね。
「駅に近いほど空き家率が高いという不思議」という節があるが、不動産市場が機能していないってことだよなあ。
インフラの老朽化問題も、全てを更新するのは不可能という状況が指摘される。
第3章は、日本の都市計画制度の問題点。つーか、事実上骨抜きで、住宅建設の誘導も果たせていないと。非線引き区域の住宅建設の規制緩和で、近隣自治体で住民の奪い合いが起きている。災害危険箇所の住宅建設を禁止できない。長期優良住宅やサ高住などの住宅政策に関しても、立地に無頓着なため、居住地としての利便性が長持ちするか疑問な事例が多いと。
これらの問題に対する解答として、立地適正化計画による居住誘導の動き。一定のエリアで人口密度を維持することで、各種サービスやコミュニティを維持できるだけのまとまりを死守すると、かなり悲壮感があるな。
第4章は、まとめ。
以下、メモ:
そして、大手企業には、こうした容積率の割り増しポイントを勝ち取るための設計ノウハウがかなり蓄積されているそうです。私が調査をした超高層マンションの中には、広場と称するオープンスペースに、ボリューム感のある植栽を巧みに配置して、マンション居住者以外の一般の通行人が入りにくい「排他的な雰囲気」を醸し出すデザインが採用されているケースがありました。これの一体どこが公共貢献なのでしょうか。p.54-5
なんか、「公開空地」制度そのものを見直す必要があるのではなかろうか。だいたい、通行人にとって快適な公開空地って、見かけないのだが。
しかし、もう一つ重要なポイントがあります。それは、日本の都市計画や住宅政策が、住宅供給を市場原理に任せたままで、これまでつくってきたまちの新陳代謝を生み出そうという意識や意欲が不足していたという点です。p.108-9
まったくもってその通り。
「いいものをつくってきちんと手入れして長く大切に使う」というストック社会への転換を、という政策はとても重要です。ですが、こうした「100年保つ」と言われる長期優良住宅が建つ立地が問われず、一律的に取り扱われ、税制・金融面でも優遇されていることが問題なのです。p.176
将来、過疎でまともに住めないような場所に作られては、建物が長寿命でも、社会寿命が短くなると。