長嶋修『「空き家」が蝕む日本』

(036)「空き家」が蝕む日本 (ポプラ新書)

(036)「空き家」が蝕む日本 (ポプラ新書)

 タイトルと相違して、あまり空き家問題はメインではない感じの本。どちらかと言うと、不動産を金融的、資産運用の対象として扱っている感じか。まあ、先に読んだ牧野知弘『空き家問題:1000万戸の衝撃』と比べると、不動産業界の問題に切り込んでいる分、志が高いんじゃなかろうか。まあ。こちらはこちらで、ポジショントークっぽいところがあるけど。結局、業界の内情まで見えないと、なんともいえない。
 『空き家問題』が、空き家の増加の原因として人口動態、特に2020年ごろの団塊の世代の退場を重視しているのに対し、本書では、新築物件の供給過剰を原因として指摘する。実際、人口の伸びも、世帯数の増加も止まっているにもかかわらず、相変わらず新築物件が大量に供給し続けられるのは、不思議としか言いようがない。これは、人口構造の転換以後も、新築住宅の建設が景気対策として重用されつづけたことが主因であるという。供給を制限する「住宅総量目安」の導入の必要性、あるいは持ち家偏重の政策バランスを是正すれば家賃補助などの貸家方面の政策費用も捻出できるという指摘も興味深い。
 しかし、日本の不動産業界や金融業界が、住宅の品質評価機能をまったく欠如していること。消費者側との情報格差を利用した物件の囲い込みを行なっている現状ってあきれるな。開かれた市場という、「制度」を作り上げることが苦手な日本の弱点があらわれた感じ。ヨーロッパではどうなっているんだろう。建物の価値を評価できないってことは、ノンリコースローンとか、日本の金融機関には無理ってことだよな。ただ、「価格」って、「根拠」に基づいて決められるものなのかな。
 ラストの二章、エネルギー問題や海外不動産への投資の話は、もはや空き家問題から外れているような気がするが。既存住宅の省エネ性能上昇は重要かもな。不動産投資するなら海外という話だが、発展途上国に個人が投資するのは難しいよなあ。特に今後、人口急増が見込まれるとオススメのフィリピンとか、ジャーナリストが何十人も暗殺される国だし、下手に関わると怖いわ。


 以下、メモ:

 ここでいう「本人の属性」とは年収や勤務先、勤続年数など。大企業に勤めている人や公務員などは属性が高いとされ、自営業の方は極端に属性が低く見積もられます。要は安定的な収入が見込めるかどうかがポイントです。職業が安定していれば住宅ローンを継続的に返せるだろうというわけです。
 つまるところ金融機関の住宅ローンというものは、不動産に対して貸すのではなく、あくまで人に対して貸すといった考え方になっているのです。p.32

 金融技術の低さとは言えるわな。一方で、アメリカのサブプライムローンのような、大破綻を引き起こす危険性は低いともいえるが…

 たとえばアメリカでマイホームを購入した際には、もし住宅ローンの支払いが滞るようなことがあれば、原則としてマイホームを手放せば終わり。住宅ローンからも解放されます。これは貸し手である金融機関の責任が重いため(貸し手責任の原則)。だからこそ、融資の際には、ローンの金額に見合うかどうか、現地を精査します、一方で日本の場合、自宅を手放してなお残る借金は、その後もずっと支払い続けなければなりません。借り手責任が重いのです。だから金融機関が現地を確認することもありません。どんな事情であっても住宅ローンはすべて返済してください、ということです。p.35

 日本が貸し手責任が軽いのは確かだよなあ。あと、アメリカでは、災害でローン支払い中の住宅が破損した場合、どういう扱いになるんだろう。住宅が被災した場合、二重ローンの負担が足かせになりがちだが。

 西欧では多くの国で、一〇年間の「住宅需要」「住宅建設見込み」を推計しています。現在や将来の世帯数を踏まえ、また市場にある住宅数やその質を勘案し、一〇年でどのくらいの数の新築住宅を建てるのかといった、おおまかな計画です。この計画ができたら、それに合わせて税制や法制度、融資などでコントロールしていきます。
 財団法人経済調査会のレポート(「ヨーロッパにおける高層集合住宅の持続可能な再生と団地地域の再開発」翻訳版/「経済調査研究レビュー」別冊/二〇〇九年一〇月)によれば、以下のようになります。
 各国の世帯数当りの指標をみると、低いのがスウェーデンの五・六%、イギリス七・二%、イタリア八・三%。多くが一〇%台で見込んでいます。単純計算すれば、一〇年で世帯数一〇%分の住宅を造るということは、一〇〇年で全世帯分が出来るということになります。これはもちろんその国の人口動態にもよるのですが、人口が全く変わらないとして住宅の寿命が一〇〇年程度なら計算が合います。これはリーマン・ショック前、二〇〇五〜二〇〇六年の数字で合わせてあります。リーマン・ショック後は市場が大混乱し参考とならないためです。いずれにせよ、おおまかなイメージで捉えていただき、日本は新築を造り過ぎだということがわかればOKです。
  (中略)
 ちなみに、割合が高いのは、アイルランド三八・九%、スペイン三一・二%、ギリシャ二四・六%など、この後に住宅バブルがはじけた代表的な三か国です。かつての我が国の年間一二〇万戸ペースというのは二〇・八%と、これらの住宅バブル国並み、住宅生産業界団体が目論む一〇〇万戸の場合で一七・三%となります。p.31-2

 うーむ、たくさん造っているな。で、既存の住宅ストックの価格下落を招くと。

 確かに、すでに建っている木造住宅は、私たちの目から見てもまさに玉石混淆で、経済学でいうところの典型的な「レモン市場」といえます。この「レモン」とは、見た目はきれいなのに酸っぱかったりスカスカだったりする印象から生まれた俗語で、欠陥品のこと。不良品が出回り健全な価格形成がされない中古車市場について書かれた有名な論文から、この名がつきました。どれを選んだらいいのか良くわからない、買うとしてもリスクヘッジのため恐ろしく安く買うしかない。これが今、日本の中古住宅市場で起きていることです。p.83

 うーむ。