横瀬久芳『ジパングの海:資源大国ニッポンへの道』

 先日の講演で、わかりやすいけど、なんか逆張り成分が多い感じだなあと思ったので、著書をチェックしてみることに。煽り成分は多いように感じるな。
 海底で金鉱探しというのは、ロマンにあふれているけど、実際の資源としては、引き合わなさそう。金の鉱脈にしても、菱刈金山くらいに含有量が高くないと、海底と言うハンデが跳ね返せないだろう。菱刈金山より経営的には成績が悪くなることは確定だろうし。
 学部が新潟大、博士が岡山大で、熊大で教職という、東京の学閥と無縁な経歴の方のようなので、そのあたりの恨み節が多い印象。研究費がかさむ理系では、このあたりの足かせはより大きいのだろうな。


 全体の構成は、最初の三章が、金鉱脈など金属資源の基礎知識。後半三章が、実際の研究の姿。
 トカラ列島に続く、沖縄諸島の北側の火山列の発見の話がメイン。その海底火山の形成史を明らかにするために、長崎大学鹿児島大学の実習船に乗り込んで、海底から堆積物を掻き取るドレッジというローテク装置で堆積物を採集。奄美カルデラ群、沖永良部海丘、与論海穴、山原海丘、山原海穴、国頭海丘といった海底火山群を発見、国際組織に登録させることに成功する。沖縄トラフのこっち側というのが、少々残念ではあるが。金がないなら、工夫で補うといったやり方が印象的。逆に、小さい組織だからこそ、小回りが利く。Jamstecにはない良さということなのかな。地道な資料の蓄積がものをいった感。
 7300年前に破局噴火を引き起こした鬼界カルデラは有名だが、その先、トカラ列島から奄美大島の北側にかけて、規則的にカルデラ火山が並んでいるのだな。カルデラ火山ということは、派手に噴火しているわけだよな。口之島カルデラ、宝島カルデラ奄美カルデラといった、九州のほかのカルデラに劣らない規模を持ったカルデラ火山が、いつ、どの程度の規模の噴火を起こしたのか、気になる。


 1-2章は、だいたい、常識の範囲かな。第3章の金鉱床の形成の話は興味深かった。沈み込み帯に金属鉱床は集中。九州の巨大カルデラ周辺には、とくに高品位の金山が集中。阿蘇カルデラの北東や加久藤カルデラから姶良カルデラの西側に金山が集中。同じメカニズムのトカラ列島の近辺にも、金鉱山がありうると。巨大なマグマ溜まりが重要と。


 ラストは、海洋学の必要性の話。欧米では、海洋学は、学際的な学問で、地学、物理、化学など多くの知識を身につける必要があるが、日本では、特定の分野の研究者が海洋に研究範囲を広げ、海洋○○学者と名乗っているレベル。タコツボ化している。ただ、海に囲まれているだけで、「海洋国家」とは名乗り難い。広い知識に基づく「海洋学」を広める必要性があると。
 しかしまあ、著者の経歴を見ると、なんかいろいろやっている人だな。最初は、鉱物の科学的分析で学位を取って、九州の火山を研究。その後、海底火山に対象が移るといった感じか。その途中に、ウナギの保護といったテーマが挟まっているのが、また、印象的。