『地理』2019/7号

地理 2019年 07 月号 [雑誌]

地理 2019年 07 月号 [雑誌]

 ブラタモリとか、地図アプリとか、興味深い特集があるのだけど、本屋で見かけない雑誌。県立図書館に入っていたので、バックナンバーを借りてきた。

特集「崩れる火山:過去に学び次に備える」

 この号は、火山の山体崩壊の特集。山体崩壊が起こす災禍のでかさ。17世紀以降に多数の死者を出した火山災害トップ5のうち、4つまでが山体崩壊というのが恐ろしい。特に、1792年の島原眉山崩壊、いわゆる島原大変肥後迷惑は、死者1万5000人を出して、巨大地震に匹敵する惨禍を引き起こしている。これが、比較的小規模な事例であるというのが、恐ろしい。あと、流れ山を調べると、本当にあちこち山体崩壊跡があるんだよなあ。
 総説に続いて、アナク・クラカタウ、磐梯山浅間山、富士山、雲仙火山の事例が紹介される。巨大な、崩壊量数立方キロ単位の事例だと、本当に広い範囲が土砂に埋まってしまう。そして、磐梯山1888年の事例のように、逃げるまもなく埋まってしまう。海沿いで、津波が発生すると、さらに被害が広がる。セントヘレンズの事例だと、直後にマグマだまりの圧力が急減して、巨大な噴火が続いて起きるという。一方で、セントヘレンズ火山の事例だと、急激な山体の膨脹がみられるから、観測網が整備されている火山では、限定的な予測が可能なのかなあ。


 前野深「アナク・クラカタウ島でおきた山体崩壊と津波」は、昨年末に起きた山体崩壊と津波の報告。1883年の大噴火で消滅したクラカタウ火山の後に出現した子火山が、噴火崩壊。それに伴う津波で、450人近い死者行方不明者が発生している。海底カルデラ側が急斜面になっていて、1950年の比較的大きな崩落を含め、少なくとも三回の崩壊が起きているそうな。若い火山も、条件によっては山体が崩壊する。
 水蒸気爆発で発生し、その後の噴火が起きなかったため、馬蹄型カルデラの保存状態が良い磐梯山。長野方面と群馬方面両方に巨大な土石なだれ堆積物を残した浅間山黒斑山の2万4300年前の山体崩壊、崩壊量5立方キロ。東側で2回、西側で1回起きている富士山の山体崩壊と、それがいちいち修復されて、現在の円錐の山容が維持されているという。有明海沿岸地域に甚大な被害をもたらした寛政島原噴火。溶岩流の流出とか、なかなか派手に活動したようだ。あとは、真夜中の満潮が被害を大きくしたことなど。現在は、平成新山の崩壊を前提に対策が練られているとか。


 生きているうちに起きると思っていなかった布田川断層帯の大地震が起きてしまったし、生きている間に一度くらいは、山体崩壊がありそうだなあ。20世紀以降、発生していないけど、100年に一度くらいの頻度では起きる災害なんだよね。予測も、対処も難しい災害だけど、粘り強く研究、ハザードマップの整備、避難方向の検討などの考慮が必要であると。適切な方向に頑張って走れば、生き延びられる可能性もなくはない、と…

 噴火に伴って発生した崩壊と異なり、地震によって誘発される山体崩壊がある。雲仙火山の眉山1792年の崩壊は、雲仙火山の北麓の古い溶岩ドームが、雲仙火山1792年の噴火の際に発生した直下型の地震に誘発されて崩壊した。崩壊量は0・34平方キロと磐梯山やセントヘレンズに比べて小さかったが、崩壊物の大部分が有明海になだれ込み、津波が発生した。この津波によって対岸の熊本を含め、約1万5000人もの死者を出す大きな被害となった。p.11

 海が近いとヤバイ。


 文献メモ:
守屋以智雄「1984年御岳何腹の大崩壊と岩屑流」『月刊地球』7、1985
災害教訓の継承に関する専門調査会『1888磐梯山噴火報告書』中央防災会議、2005
大澤貞一郎「磐梯山噴火後における裏磐梯の土地利用変化」『地学雑誌』97,1988
町田洋・白尾元理『写真でみる火山の自然史』東京大学出版会、1998
関谷直也「日本の防災システムの陥穽」遠藤薫編『大震災後の社会学講談社現代新書、2011
国土交通省九州地方整備局雲仙復興事務所『島原大変:寛政四年(1792年)の普賢岳噴火と眉山山体崩壊』2003
赤木祥彦「島原半島における眉山大崩壊による津波の高度とその範囲」『歴史地理学』202,2001
都司嘉宣・村上嘉謙「寛政四年(1792)島原半島眉山崩壊に伴う有明海津波熊本県側における被害、および沿岸遡上高」『東京大学地震研究所彙報』68、1993
島原市仏教会『たいへん:島原大変二百回忌記念誌』1992
渋江鉄郎『眉山ものがたり』昭和堂印刷総合企画、1975

若狭勝「熊沢蕃山の幾世紀を超えた先見性:岡山市旭川百間川にみる低水思想」

 岡山市中心部を流れる旭川の本来の本流が、百間川など東側だったという話。こういうの、どこまで妥当なのだろうか。どっちに流れてもおかしくないように見えるが。
 地形を利用して、百間川を遊水池として利用する、熊沢蕃山の治水思想。あるいは、百間川河口地域の岡山藩の広大な干拓新田など。

佐々木夏来「連載・地形分類図 作成の課題と防災活用 第8回:地すべり地を対象とした地形分類からわかること・わからないこと」

 滑落崖と地すべり土塊を形成する地すべり地形は、活動の継続性や再活動性があり、活動の予測防止に活用できる。一方で、2018年北海道胆振東部地震に見られるような、広域の表層崩壊に関しては、地形として残りにくく、対象外であるとか、地すべり地形分布図作成後に発生した地すべりは、反映されていないとか。
 一方で、山岳湿地の分布や生態系の研究に使えるかもしれないと。

森川洋「東京一極集中は日本を救うだろうか」

 市川宏雄『東京一極集中が日本を救う』の批判的書評。
 まあ、だいたい東京というのは、日本国を基盤としてグローバル都市になっているのだから、日本国が衰退すれば、それに応じて地位が低下していくんだよな。自分で自分の基盤を食っても、先延ばしにしかならない。
 そういう蒙昧な思想は、東京の出生率がせめて、もう少し改善してから言うべきこと。あと、老人介護のマンパワーの充足。
 つーか、切り捨てられる地方が、日本国にいるべき必要も無いんだよね。


 ドイツの空間整備政策の紹介が興味深い。しかし、20世紀にいたるまで複数の国家の寄り合い所帯であったドイツと、中央集権国家に邁進した日本では、制度的前提に差がありすぎる。まだ、フランスあたりのほうが参考になりそう。失敗も含めて。
 「メトロポール地域」の条件として、決定・制御機能、イノベーション・競争力機能、ゲートウェイ機能が重視され、人工規模はあまり重視されないという。とはいえ、これらの機能が充実した場所は、相応に人口が集中する場所のように思えるが…

中家恵二他「新シルクロード紀行 河西回廊を往く 第2回:世界の八大奇跡・兵馬俑

 そうか、兵馬俑って、発掘されるまで忘れ去られていたのか。兵馬俑の遺構には、大量の木材が使用されていて、さらに金属器の精錬や兵馬俑焼成など大量の木材を必要とした。これに関連する史料として、甘粛省天水北道区党川郷1号墓から出土した木板に書かれた水系地図の関係。
 あと、金属製品に旋盤が使われていたとか。

元木靖「地理学の研究と文明論:安田喜憲著『文明の精神』に寄せて」

 うーん、こういう「精神」に弱い人いるもんだな。正直、人間の行動原理の基本的な部分に「社会的に評価されること」がある限り、人間の競争は止まらない。拡大方向にインストールされている。そこはどうしようもないのではないだろうか。

糸井剛志「『人口増減率』の分布図から人口移動を考える」

 授業研究の報告。図の作成に時間が取られて、探求型授業の答えの調べが行き届かなかったというのが、限界だなあ。関西地域の人口増減地図を1955-60、1970-75、1985-90、2000-05の四枚並べて検討しているが、人口の増減が興味深い。1950年代奈良県南部の人口増加は、山地でのダム建設の影響か。淡路島の人口の推移も興味深いな。1970年代まで人口を吐き出しつくして、20世紀中は安定。しかし、21世紀に入ると、残った人たちが高齢化して、亡くなっている状況を示しているという読みでいいのかな。

書評

 計7冊紹介。釜井俊孝『宅地崩壊:なぜ都市で土砂災害が起こるのか』がおもしろそう。書店で見かけたら、買う。
 あとは、本岡拓哉『「不法」なる空間にいきる』は、終戦後の不法占拠とその後の移転による生業の変化などを扱っているらしい。
 加藤政洋『大阪:都市の記憶を掘り起こす』、藤城信幸『図説 渥美半島:地形・地質とくらし』、小口千明・清水克志編『生活文化の理地学』あたりがおもしろそう。