特別展「若冲と京の美術:細見コレクションの精華」

 講演に続いては、展示を見学。おおよそは、講演の通りの構成。三つの展示室は、第一室が洛中洛外図の系統を引く大型の屏風類。第二室は、和歌に関連した美術品類と茶道具。第三室は、琳派伊藤若冲の絵画。
 しかしまあ、江戸時代の美術を楽しむには、和歌か漢文の素養がないと、全然ダメなんだなというのが痛感される展示だった。特に第二室は、和歌をモチーフにした作品が多かったが、伊勢物語も、源氏物語も、和歌集の類にも親しんでいない人間には、見所がさっぱり分からなかった。掛け軸類も、賛の類も含めて鑑賞されていたはずだが、漢文も墨蹟も分からない人間には、なかなか縁遠い。そういう意味では、屏風のほうが、装飾品だけに、分かりやすい。
 あと、細見美術館というと、「琳派」というイメージなのだが、意外と琳派関係の作品は出展されていなかった感。


 一つ目の展示室は、洛中洛外図がスピンオフした各種の屏風類。四条河原遊楽図屏風などの風俗を描いたものや、京都周辺の一部分を拡大したものがメイン。仔細に見ていくと、なかなかおもしろい。例えば、作品番号4の洛外図屏風に描かれている方広寺周辺の店舗建築はかなり仮設的な建物なのに対して、同10番の祇園祭礼図屏風の建物は土蔵を持ちうだつがあがっているとかなり立派な建物が並ぶ。これが、時代的変化なのか、洛中と洛外という立地の差なのだろうか。
 あと、さまざまな仮装姿の人々が踊るちょうちょう踊り図屏風がおもしろい。1839年に突発的に流行した「ちょうちょう踊り」に興じる人々を描いたものだが、赤い色の衣装の人々を中心に、カエル・大根・牛・石灯籠の扮装をした人々が加わっているのがおもしろい。もう一つ、今宮神社のやすらい祭と広隆寺の牛祭りを描いたやすらい祭・牛祭図屏風、牛祭の白い面の絵面がかなり強烈だった。


 第二室は和歌関係の作品と茶道具。細見コレクションの端緒は、茶道具だったのか。芦屋釜や茶碗類は、ぱっと見て、まだ分かるな。一方で、掛け軸の良しあしはさっぱり分からない。
 あと、伊勢物語かるたとか、硯箱とか、なかなか贅沢だなあという感じ。
 四季草花図屏風や四季草花桜楓図屏風が見事だった。あとは、和歌をみんなで作るときのイメージソースとなったと解説されていた四季草花図屏風など。屏風類は分かりやすく良かった。


 第三室は、各種絵画。おおまかに琳派系の作品と伊藤若冲作品に二分。
 前者では、中村芳中の「朝顔図」が良かった。あとは、神坂雪佳の四季草花図とか。
 伊藤若冲の作品は、都合15点が展示。やはり、花鳥図押絵貼屏風が良い。あと、風竹図と群鶏図が目立つ感じか。。鼠婚礼図も、なんかおもしろい絵だなと。一方で、やはり、きちんと楽しむには漢文が読めて、賛の意味が理解できない無理なんだなと。
 だいたいは水墨画だが、糸瓜群虫図が彩色作品。なんか、全体的な印象がヒエロニムス・ボスを連想したんだが、なぜだろう。色使いが、なんか17世紀あたりのオランダ絵画っぽいと感じた。