湯浅常山『続 戦国武将逸話集:訳注『常山紀談』巻八〜十五』

続 戦国武将逸話集―訳注『常山紀談』巻八~十五

続 戦国武将逸話集―訳注『常山紀談』巻八~十五

 現代語訳の『常山紀談』2冊目。立花道雪などの九州の逸話から、秀吉の北条氏攻め、朝鮮出兵関ヶ原の戦いに関わるエピソードなどをまとめる。つーか、立花道雪のエピソード事例が多いのは、それだけ、多くの人の関心を惹いたってことなのかね。


 こうして、武士の戦場でのエピソードを見ると、戦の特定の局面では乱戦状態になっていたのかな。重武装の武士が、突撃して、ぶつかり合う。その勢いで一気に局面が動く。場合によっては、敗走している側の第二陣が突撃して、逆転したり。その途中で、悠長に戦闘中に取っ組み合ったり、首とってたり、個人戦の局面が現出するといった理解でいいのかな。この前後で、足軽たちの集団戦が起きる。
 あと、戦国時代後半になると、鉄砲で撃たれる事例が多くなる印象。


 最初の訳者による解説も興味深い。今回は、戦陣と女性の話。『常山紀談』と当時の体験を聞き書きした史料を比較して、戦場の悲惨さを捨象しているという指摘。烈女を理想的に描くことはしているが、生々しい悲惨さは抜けている。戦場の乱取りの姿。
 確かに、一巻目の岡郷介の見知らぬ「乞食の老女」を母親と偽って使い捨てた話は、エグい。


 272話の「池田輝政の使者渡辺惣左衛門、野中と二人で危険な道中を行く」が印象的。関ヶ原の戦いの時、伊勢、大和経由で大坂の屋敷まで、潜入して連絡を行った二人の話。何箇所も関所がある中を、だましだまし抜けて、使者の使命を果たす。しかし、一緒に行った野中の扱いのぞんざいさが…
 あと、321話で佐治縫殿の後半生が紹介されるが、大坂の陣で大坂方に加わったものでも、中下級クラスで、運が良い人間は落ち延びることができたのだな。その後、浪人中のエピソードの「千石婆」のくだりが印象的。

 谷太郎右衛門、戦いの心がけを語る


 谷太郎右衛門は武功を積んだ武士で、黒田家に客分として招き置かれていた。谷は、「軍の場では敵よりもまず味方に気遣うべきである。味方が一人進み出て踏み堪えているところに、後から二人、三人行き重なっても、最初の者が剛の者と思われるだろう。そのようなところへ行ってはならない。自分はまた別の場所へ一人で踏み出して耐えている志を持つべきである。しばらくすれば、味方がそこへ続いて来るだろう。また、日頃親しく主君に寵愛されている人であっても、戦場でその人の傍らに近寄ってはならない。必ず一人で戦うように心得るべきである。また、武士は弓鉄砲の上手と言われることを好んではならない。敵を追い払ったり、あるいは城へ射込みたいときに、足軽は進みがたいということで、名指しで命令があった際、射当てなければ面目のないことになる。危うい場所は敵も厳しく守っているから、多くは犬死することがある。p.98

 武士ってのは、スタンドプレーを決めつつ、生き残らなければならないと、なかなか難しい課題を背負っているのだな。しかし、みんながこういう行動をとったら、負けそう…

そこへ、十七歳になる大膳の嫡子出羽守(衛友)が走り寄って、由井を何度も打ち据えてへたり込ませ、取って押さえて首を取り、父のもとへ行ってみると、息が絶えていた。p.109

 やはり、甲冑武者相手の戦いでは、刀は鈍器なのか。