笹本祐一『星のパイロット』

星のパイロット (朝日ノベルズ)

星のパイロット (朝日ノベルズ)

 B-58ハスラーの動画を見て、読み返したくなったので、召喚。
 2011年に刊行された、朝日ノベルズの新書版。帰還に関して、はやぶさによるイトカワからのサンプルリターンに発想を得たとおぼしき、イベントが書き加えられている。また、巻末には、ロサンゼルス近辺に宇宙関係の施設をめぐった旅行記が。こうして読むと、この取材旅行が、そのまま、作品に投入されているのだな。ハードレイクは、それでも架空のようだが、彗星狩りのJPL内部なんかは、そのまま投入されているのだろう。あとは、アメリカで買いあさってきた航空機のマニュアル類とか。


 飛び込みの通信衛星整備の仕事のために、宇宙飛行士を求めていた零細宇宙企業スペース・プランニング社に、新米宇宙飛行士の羽山美紀がやってきて、初飛行を経験する話。単純な、衛星の修理かと思えば、宇宙の上でいろいろなトラブルに巻き込まれて…


 しかし、90年代からすると、なんというかいろいろと変わったよなあ。往還型シャトルとか空中発射とかは、完全にしぼんでいる。というか、アメリカは有人宇宙飛行を行う機材を持たなくなって、ロシアのソユーズに依存とかなあ。
 空中発射は、発射母機が固定費となってそれほど安くなく、大陸間弾道ミサイルの中古品に客が流れている状況か。
 一方で、スペースXによるロケットの垂直着陸再利用なんて、民間企業が宇宙開発の最先端で活躍する状況にはなりつつある。


 90年代に書かれた話を強く感じさせるのは、携帯デバイスの扱いだな。21世紀後半に入っても、固定電話で連絡取り合っていたりする世界かあ。ここまで、携帯電話やスマホが日常生活に入り込んで、誰も彼も、薄い四角形のブツをにらんでいる状況になるなんて、1990年代には想像もつかなかったよなあ…