『歴史群像』2017/10号

歴史群像 2017年 10 月号 [雑誌]

歴史群像 2017年 10 月号 [雑誌]

白峰旬「関ヶ原合戦の真実」

 巻頭特集。これ、どこまで信用できるのだろうか。個々の合戦には、あんまり興味がなかったので、研究史をよく知らないのだけど。
 参謀本部の日本戦史は、捏造。大垣・岐阜の両城を拠点に、尾張を窺う西軍の体制だったが、岐阜城の陥落で構想瓦解。優勢な東軍に大垣城を包囲されて、危機に。後詰に来た毛利軍も、とても対抗できるような兵力ではなく、撤退を企図。しかし、相互支援を行うはずだった毛利軍が事実上家康に降伏してしまい、「山中合戦」であっさりと撃破してしまう。特に、大谷勢は、徳川・小早川両軍に挟まれ、あっという間に壊滅。
 総合的な動員能力では優位にあったはずの西軍が戦略的な兵力集中に失敗。美濃方面では、劣勢に陥ってしまったというのが興味深い。


関連:関ヶ原合戦における「白峰旬」説について〜この戦、それほど劇的じゃなかった?じゃあ脚色したの誰? - Togetterまとめ

白石光「死闘!サマール沖海戦」

 レイテ沖海戦のハイライト、日本の戦艦部隊による護衛空母群攻撃。
 アメリカ軍の指揮組織の縦割りぶりが印象的だな。つーか、マッカーサーの半独立王国みたいなのが、どうして存在しえるのかが不思議。
 あとは、日本側の戦果の少なさが。航空機に襲撃されまくる状況で、逃げに徹されると、戦艦と重巡の戦果はこんなものなのかね。対艦装備でなくても、かなりのダメージを入れることができる。非装甲部は大損害か。

荒川佳夫「コンスタンティノープル攻防戦」

 一月半の戦いか。10万以上の軍勢に対して、多くても1万に届かない戦力で、しかも巨大攻城砲の攻撃をうけて、良く戦ったというべきだろうか。最終的に、全軍での無理攻めで落ちたんだなあ。

山崎雅弘「WW2美術品争奪戦」

 ヒトラーゲーリングによる、ヨーロッパ美術の大略奪。買いあさったあげく、フランスやイタリアから、機会があれば強奪と。ユダヤ系の富豪からは、完全に強奪としか言いようがない。それに対して、連合国側も疎開や奪回のための部隊を編成するなど。さらに、戦後の米ソの争奪戦。つーか、ソ連のやってることも、実はヒトラーとあまり変わらないような。
 印象派以降の絵画やスラブ系の文化財に対する、無惨としか言いようがないやり口が、ナチスだなあ。

古峰文三「幻の『シンガポール沖決戦:イギリス海軍の対日戦略1919〜1942」

 なんというか、「仮想敵」の設定って怖いものだな。予言的な機能を果たしてしまう。
 シンガポールは、第一次世界大戦までは軍事拠点ではなかった。一次大戦後、ドイツ大海艦隊という最大の仮想敵を失ったイギリス海軍が、組織防衛のために設定したものだった。そのため、対日戦争計画は、あちこち穴だらけだったけど、それで構わなかったのだろうな。それでも、対日戦を意識した、近距離での砲撃戦ドクトリンや長距離を行動可能な重巡洋艦の整備が行なわれたし、軍縮条約の内容にも影響した。
 しかし、ドイツの再軍備に伴う新脅威の出現で、極東に兵力を送ることができなくなったイギリス軍。むしろ、日本軍の拠点を前もって整備してやったようなものになったと。
 あとは、シンガポール要塞が海側だけで、陸側からの攻撃を全く考慮していなかった欠陥とか。

白石光「第二次大戦のイギリス軍火砲」

 25ポンド砲好き。着色すると、こんな風に見えるのかあ。
 2ポンド砲は、重すぎる上に潰しの効かない火砲であった。日本の37ミリクラスの狙撃砲って、ちゃんと考えられた兵器なんだな。

久野潤「インタビュー:常松秀雄:「マリアナ」と「レイテ」を戦った戦艦『長門』兵科士官」

 1944年に海軍兵学校を卒業して、戦艦の鉄火場に叩き込まれるのか…
 マリアナ、レイテで対空戦闘を経験。その後、潜水艦部隊に転籍して、訓練。戦後、潜水艦を処分する「行き止まり」作戦の時に潜水艦を回航した経験も。

松代守弘「対艦ミサイル発達史」

 エイラート事件で注目されるようになった。この種の威力を過大に期待されるのって、魚雷と似たような感じなのかな。
 エイラート事件やフォークランド紛争、そしてソ連のドクトリンで、大型艦をノックアウトできると期待されるが、イラン・イラク戦争で、その過剰な期待がはがされると。
 結局のところ、電子戦などの総合力に優れた側が勝つ。しかし、隙を突かれれば痛い目にあう兵器であることは変わりないと思うが。
 そして、新世代の対艦弾道ミサイルや極音速対艦ミサイルの出現。

瀬戸利春「日中戦争長沙作戦」

 大陸打通作戦に先駆けて、三度、長沙方面への攻勢が行われている。これは、兵力を節約する持久作戦のなかで、敵に主導権を握らせない攻勢防御の一環だった。長沙まで進撃する意図はなかったが、中国側の誇大な宣伝に使われてしまった。
 1941年の攻勢作戦では、そもそも、長沙まで進出する予定はなかったのに、途中で衝動的に予定変更。中国軍の誘い込み作戦に引っかかって、かなりの損害を出した。師団単位で包囲されるとか、かなり危険な状況だったが、制空権を維持していたので、撤退できたという感じだな。
 つーか、こんな作戦指揮が許されるのが、「日本軍の補給軽視」の正体。で、こんな明らかな失敗による敗北をしでかした指揮官が、陸軍大臣まで出世しているのが、日本軍の人事のアレさだよなあ。

モリナガ・ヨウ「迷宮歴史倶楽部:帝都の水源を守れ!村山貯水池の偽装と堰堤防御」

 水道施設の対空偽装は、なかなか大変だったと。ああいう風にしても、航空写真分析の専門家にかかれば、あんまり意味がなかっただろうなあ。耐弾層が…

古峰文三「日の丸の翼:海軍水上偵察機『瑞雲』」

 急降下爆撃機の役割も期待された水上機。だが、結局、フロート付きの飛行機で、それは無理だった、と。しかし、大戦末期に、彗星の次に性能が良い単発爆撃機水上機というのは、開発方針として、あんまりアレだったなあ…

時実雅信「米潜水艦『トラウト』の金塊輸送作戦」

 太平洋緒戦、フィリピン失陥直前に、フィリピン自治政府の通貨準備の金塊や有価証券を潜水艦で運び出した話。制空権が怪しいときに、潜水艦が輸送に駆り出されるのは、アメリカも同じか。

有坂純「縦横無尽!世界戦史:カタパルトVol.2」

 トーション式カタパルトから、トラクション式カタパルトへの変化。たらした紐にいっせいに飛びついて、その重みで弾丸を飛ばすって、すごい発想だな。しかし、10人居れば、600キロくらいの重量になるから、確かにタイミングを合わせられるようになれば、それなりの物を飛ばせそうだ。
 あと、この種のカタパルトについているスリングをどう、タイミングよく作動させるかというのも、どういう技術だったのだろうか。


 用語の混乱が、現代の研究を困難にしている状況。あるいは、カロリング朝への以降直前における攻城用カタパルトの存在とか。この連載、毎度、情報量豊富だなあ。