熊本県立美術館特別展「歴史をこえて 細川家の名宝:国宝“細川ミラー”期間限定公開」

 永青文庫創立70周年記念展の巡回と新収蔵品のお披露目の合同展示。2階展示室の三室のうち、一室が細川家の名宝展、残りが新収蔵品展の振り分け。
 全体としては、近世大名細川家に伝来した茶道具類や書画、調度などと、細川護立が近代に入ってから美術コレクターとして蒐集した美術品にわけられる。侯爵家の御曹司ともなると、当時評価がされず安かったとは言え、10代半ばの病気療養中に、サクッと白隠の絵画を買ったり、見学にいった展覧会で横山大観菱田春草の作品を大人買いできるんだなあ。


 前半は、近世細川家の「道具」類。大正5年に「御宝物帳」というリストがまとめられていて、形見分けなどで外部に贈られた「雑」部以外は、だいたい残っているという。銘入りの茶碗、茶入、香炉、茶杓がメイン。茶杓細川忠興が削ったものがあったり、さすがの細川家といった感じが。江戸時代を通して、東南アジアの茶碗や香合が輸入されているのも興味深い。白菊と銘をつけられた香木は、切り取った人をちゃんと記録しているのがおもしろい。貴重なものは、こういう管理がなされるのだな。
 伝雪舟の「富士三保清見寺図」は、細川忠興が「雪舟にしては上手すぎる」と落款部分を切り取ったとか、さすが三歳様といった感じのエピソードが紹介されていたw
 あとは、「十二類合戦絵巻」の模写本がおもしろい。室町時代の武士の殺伐とした感覚。重要な儀礼とは言え、公然と侮辱して、それをきっかけに戦争始めてる設定。室町時代でも、やっぱり舐められた殺すの世界なんだなあ。あとは、騎馬武者がいなくて、多彩な武器を使用しているのも興味深い。弓を使っている登場人物の中でも、漆で装飾された弓と装飾のない素木の弓があり、近接戦武器も太刀に、長巻に、熊手に、六尺棒とか。殴り合いの武器が一番発達したのが室町時代ということなのかな。
 紫檀のたばこ盆とか、蒔絵の硯箱とか、やはり儀礼用の大名調度は華麗。


 後半は、近代的美術コレクターとしての収集品。最初は病気療養の際に、その養生を書いた著作に感銘を受けて、白隠禅師の書画を収集するようになった。同時期に刀剣の蒐集も開始。近世絵画、近代日本画とコレクションの範囲を広げ、後年には中国の古代美術品を集めるようになる。
 漢代以前の中国古代文化の出土品は、さすがに見事。副葬品の銅製馬車とか、銅櫃とか、今では中国国外には出てこないだろうなあ。一方で、遺跡情報や他の副葬品から切り離されて、一つの「物」として孤立している遺物の、なんというか寄る辺の無さも印象に残るなあ。
 絵画では、梅原龍三郎の「紫禁城」がいいなあ。色というか、雰囲気というか。小林古径の「髪」、いかにも伝統的な感じだけど、後ろの童女の短髪・縦縞柄というのは、かなりモダンな姿なのか。


 細川ミラーこと、「金銀錯狩猟文鏡」。さすがの細工だけど、もうちょっと接近してみたいというか、ルーペをセットして欲しかった。