瀬尾優梨『聖女が「甘やかしてくれる優しい旦那様」を募集したら国王陛下が立候補してきた』

 天然国王と悪逆聖女の恋。
 伯爵家の庶子であるヒロインは、今まで放置だったのに、聖女になった途端に縁談を持ち込んでくる父伯爵への意趣返しと、聖女職を続けるために、無理難題を突きつける。
とろとろに甘やかしてくれること
とびっきり優しいこと
誠実で、浮気を絶対にしないこと
ステイシーが家事を一切しないのを許可すること
身長は三十八トル以上であること
猫が好きなこと
金持ち(少なくとも年収二十万クルル以上)であること
筋肉質で、片手でレンガブロックを粉砕できること
 これで、結婚を申し込んでくる人間はいないはずだと思っていたら、国王陛下が求婚してきて、目の前でレンガを粉砕するという。


 元々、伯爵の愛人として田舎に追いやられていて、そこで楽しく生活していたのに、母親の死を契機に伯爵邸に呼び出される。故郷から引き剥がされたのに、伯爵は「不細工」と言って放置。好きかってする貴族に敵意を持っているヒロイン、ステーシー。恵まれた魔力を活かして、自分の自由を確保するために出世。聖女として、地位を嵩にかけて好きかってする連中を成敗するのが大好きという、なかなかになかなかなヒロイン。
 一方、国王リュートは、兄アロイシウスが落馬事故の後遺症で退位したために、急遽即位した、本来は王位に就くことを予定されていない人物だった。騎士として、前線に立ち、騎士的な文化で生きてきた。明るくハキハキと喋る人が好みなのだが、貴婦人はおとなしく夫を立てるべしという文化のため、コミュニケーションギャップに苦労していた。
 国王親征の邪竜退治の際に、メインの攻撃を務める立場とそれを邪竜の毒から守る支援者の立場で、二人は出会う。快活に話すステイシーにリュートは惹かれていくが、彼女は神官。結婚を無理と諦めていたら、ステイシーが結婚相手を募集していて、しかも、自分が当てはまると勇んで。ここいらあたりのすれ違いがいいなあ。


 全体に物語が前半に偏ってる感じはあるなあ。そもそも、無理難題に当てはまる人物が現れちゃった。その彼が、レンガを一撃で粉砕してというところがお話のキモだしなあ。


 後半は紙版のオリジナル部分。
 その後、王妃になることが決まったステイシーは、伯爵家と絶縁して、公爵家の養子に。そこで、義理の姉ドロテアから淑女指導を受けることに。基本的な部分で苦労するステイシー。
 さらに、対立派閥の侯爵家の娘で、前王妃が昔から好きだったリュートを渡したくないとアプローチしてきて。さらには、誘拐までしかけてきて、失脚。しかしまあ、体格差もあるのか、下を向いてボソボソ喋るという貴婦人の言葉、リュートはそもそも聞き取れてないというのが、なんとも無情。
 侯爵は、女装して星女神教会で奉仕というのが、なかなかエグい罰だなあ。


 肝心なところで鈍感アタックを繰り出すリュートさんがなかなか。その天然ぶりで、政治的な面では的確な助言者を選ぶから、自身の経験が少なくてもなんとかなるという、人タラシぶりもw


 そういえば、38トルって、どのくらいの身長なのだろうか。1トルを5センチとすれば190センチ、6センチとすれば204センチ程度か。どっちなんだろう。