黒猫かりん『疲労困憊の子爵サーシャは失踪する:家出先で次期辺境伯が構ってきて困るのですが!』

 まあ、タイトルそのままのお話。サクサクと話が進んで、詠みやすい。
 カスハラ満載の難治の地を治めるサルヴェニア子爵家の若き当主、サーシャは疲労困憊状態の中で、婚約者から18歳の誕生日の日に、「要領が悪いんじゃないの」と言われてぷつりと糸が切れてしまう。なにもかもが嫌になったサーシャは、爵位の返上と婚約破棄の文を王に宛てて出して、偽名口座のお金だけ持って、南の辺境伯領に旅立つ。
 しばらく休んだ後、隠し財産だけでは生きていけないので、辺境伯領のお役所に勤めることに。そこで注目の新人となり、執事や次期辺境伯に構われるようになる。「鼻っ柱の強い、頭のいい女」が好みの辺境伯の息子は、サーシャを気に入って、外堀を埋めてくる。
 今まで孤立して、押し付けてくる人間ばかりの中で、守られ協力する関係が身に染みる、か。


 再び逃げだそうとしたところを捕獲されて、落とされて。最終的に、サルヴェニア子爵領を侯爵ですげ替えて、より強力な統治体制を構築。サーシャは後顧の憂いなく辺境伯家へ。ついでに、婚約者の伯爵家も改易されて、男爵家に格下げ。
 安定した自分の家の役所で、接待研修で褒められて調子に乗った元婚約者が、本当に…
 分かっていなかった人々と、後ろでこそこそ他人を矢面にする奴か。


 後半は、サルヴェニア子爵領改めダナフォール侯爵領の統治を難しいものにしたルビー鉱山の鉱夫たちが制圧されるお話。自律的職能団体によって運営されてきた鉱山が解体され、領主直営の鉱山に再編されるお話。スト破りのやり口って感じだなあ。
 そして、クレーマーに追い回される子爵領官僚の疲弊ぶり…