今年印象に残った本2009(ラノベ以外編)

 今年読んだ本の中で小説以外のもののベスト10。今年は全部で188冊(日記の読書ノートを数えると)。12月に読んだのも含めて、200冊の大台に乗ったか乗らないか。ここでは、フィクション以外のものをランキング。専門書に近いものから新書・文庫まで。今年は歴史関係の本を集中的に読んだので、それ関係が多い。
以下、10位からランキング。


・10位 玉木俊明『近代ヨーロッパの誕生:オランダからイギリスへ』

近代ヨーロッパの誕生 オランダからイギリスへ (講談社選書メチエ)

近代ヨーロッパの誕生 オランダからイギリスへ (講談社選書メチエ)

久しぶりに読んだ、専門に近いところの本。というところでランクイン。本書の内容云々以前に、関連する論文が腐海のそこに沈んでいて、どこになにがあるか把握できなくなっている現状が印象的だった…


・9位 森公章『奈良貴族の時代史:長屋王家木簡と北宮王家』木簡史料を中心に、奈良時代の貴族を描いた本。木簡の解読から再現された、当時の有力貴族の家政の状況。奈良時代の政治情勢など、へーへーへーといった感じの本。難しくもあったけど…


・8位 益田啓一郎編『美しき九州:「大正広重」吉田初三郎の世界』
美しき九州―「大正広重」吉田初三郎の世界

美しき九州―「大正広重」吉田初三郎の世界

「大正広重」こと吉田初三郎の活動を、九州を中心に跡付けた本。北九州市で開かれた展覧会の図録を元に、加筆修正したものだそうだ。カラー図版が多くて、楽しめる。
 吉田初三郎と九州の縁の深さ、各地に散在する原画、戦時中は熊本県内の佐敷に疎開していたとか、初三郎の皇室信奉の思想とか。吉田初三郎について、コンパクトにまとまっている感じ。地方出版社なので、少々手に入れにくいかもしれないが…


・7位 瀬戸口明久『害虫の誕生:虫からみた日本史』
害虫の誕生―虫からみた日本史 (ちくま新書)

害虫の誕生―虫からみた日本史 (ちくま新書)

昆虫と人間の関係。近代化にともなって、昆虫観が変化していく状況を活写する。農業害虫観念の出現、衛生害虫観念の普及、それと科学的知見の時間的ずれ。戦争と昆虫学。国民意識の生成、衛生観念や身体的規律化あたりの問題とつなげて展開できそうな、本書を起点に色々と考えられそうなところが印象深い。


・6位 竹内裕二『イタリア中世の山岳都市:造形デザインの宝庫』 イタリアの集落の造形の面白さ、魅力。これに尽きる。近代的な都市計画思想には無い、自然生成の空間の魅力。
ちょっと本書から外れて、建築とか町並みの話で「中世の町並み」なんて言い方をするけど、それ近代の町並み違うのとかいうの多いよな。


・5位 平山廉『カメのきた道:甲羅に秘められた2億年の生命進化』
カメのきた道 甲羅に秘められた2億年の生命進化 (NHKブックス)

カメのきた道 甲羅に秘められた2億年の生命進化 (NHKブックス)

たまに読む、自然史系の本。カメの甲羅の進化と生存戦略。低エネルギー戦略って、結構重要だと思う今日この頃。


・4位 山本紀夫『ジャガイモとインカ帝国:文明を生んだ植物』
ジャガイモとインカ帝国―文明を生んだ植物

ジャガイモとインカ帝国―文明を生んだ植物

インカ帝国にいたるアンデスの山岳文明の食料基盤を追及した本。フィールドワークと考古学・歴史学の研究成果を結合し、ジャガイモの重要性を明らかにする。個人的には、野生植物から「雑草」化、そして栽培化への長いプロセスを想像させる第一章が興味深い。
本書では、イモに対する蔑視・偏見が強いと述べているが、そんなものかなあ。ジャガイモが文明の基盤と主張しても、特に違和感を感じないのだけれども。そんなに抵抗があったのだろうか。


・3位 岩重多四郎『戦時輸送船ビジュアルガイド:日の丸船隊ギャラリー』
戦時輸送船ビジュアルガイド

戦時輸送船ビジュアルガイド

軍事・模型関連からはこの一冊がランクイン。『モデルグラフィックス』の連載を再構成したものだが、カラーも多くて楽しめる。特設艦艇とか護送船団とかそんな用語に惹かれる人には必携。陸軍舟艇母船とか徴用捕鯨船・漁船、特設工作艦とか、もう堪りません。
そう言えば、陸軍舟艇母艦とか一等、二等輸送船なんかを見ると、アメリカの揚陸艦艇と同じアイデアの船が結構あって興味深い。考えることは同じだなというか。


・2位 中西僚太郎他編『近代日本の視覚的経験:絵地図と古写真の世界』
近代日本の視覚的経験―絵地図と古写真の世界

近代日本の視覚的経験―絵地図と古写真の世界

観光に関連するメディアを扱った論文集。鳥瞰図、写真、絵葉書、観光パンフ、民間刊行の都市地図など。このあたりのものを集めている人間として、見逃せないものがある。
しかし、この手のパンフ類をどう整理するか、難しいものがある。


・1位 香月洋一郎『景観のなかの暮らし:生産領域の民俗』
景観のなかの暮らし―生産領域の民俗

景観のなかの暮らし―生産領域の民俗

今年読んだ本の中でベスト。感想と引用の長さも、多分一番。現地のフィールドワークから、その土地の景観とその背景をあぶりだしている。印象的な文章がたくさんあった本。→http://d.hatena.ne.jp/taron/20090701#p1


以下、次点。
盛本昌広『贈答と宴会の中世』asin:4642056548
山根一眞メタルカラー烈伝:鉄』asin:4093794308
大川聰『写真でたどる建設機械200年』asin:4895225127
山本博文江戸城の宮廷政治:熊本藩細川忠興・忠利父子の往復書状』 asin:4061596810