今年印象に残った本2012(一般部門)

 フィクション以外全般部門。今年の読了は345冊。今年はマンガをシリーズ単位で再読しているから、そのあたりで量が膨らんでいる。一般部門では冊数はあまり変わっていない、と思う。なかなか選ぶのに苦労した。
 今年も秋から失速した感じがするなあ。
 以下、ランキング:

  • 10位 宇佐美昇三『笠戸丸から見た日本:したたかに生きた船の物語』

笠戸丸から見た日本―したたかに生きた船の物語

笠戸丸から見た日本―したたかに生きた船の物語

 2月ごろ固め読みした商船関係の本から、これを選択。もとはロシアの義勇艦隊の輸送船だったのが、旅順で鹵獲。その後、第二次大戦末にソ連軍に千島で撃沈されるまで、日本の帝国主義の最前線で活動を続ける数奇な運命。さらには、何十年もかけて、乗船したブラジル移民へのインタビューなど事実を発掘しつづけた著者の粘り強い研究にも敬意を表して。

巨大津波は生態系をどう変えたか―生きものたちの東日本大震災 (ブルーバックス)

巨大津波は生態系をどう変えたか―生きものたちの東日本大震災 (ブルーバックス)

 東日本大震災後、湿地や海浜の昆虫を中心とする生態系を一年かけて観察した結果の報告。湿地や海浜の生態系が分断され細っていた所に、巨大災害でかなり危機的な状況だという指摘。
 今後の「国土強靭化」の掛け声のもとに、どのような変動が起きるのかも気になる。

  • 8位 G・ブルース・ネクト『銀むつクライシス:「カネを生む魚」の乱獲と壊れゆく海』

銀むつクライシス―「カネを生む魚」の乱獲と壊れゆく海

銀むつクライシス―「カネを生む魚」の乱獲と壊れゆく海

 最近では「メロ」と商品表示される南氷洋の深海魚マジェランアイナメが商品化され、結果乱獲によって資源量が激減していくあり様。それに対する保護運動などが紹介される。世界の公海が未だに乱獲の巷であるという状況を端的に示す。そもそも、成長が遅い深海魚って、商業的に捕獲することに無理がある。この手の大型肉食深海魚なんか、生長期間が数十年レベルだし。
 漁業関連では、ウナギの本を中心に読んだんだが、結局、ランクインしたのはこの本になった。

イスラム飲酒紀行

イスラム飲酒紀行

 イスラム世界でお酒を飲んで回った紀行。イスラム世界の中心部であるアラブ・ペルシャ圏では、むしろお酒はあまり表ざたにしないレベルで呑まれていて、完全に規制されている状況ではないこと。むしろ、比較的新しい時代にイスラム教が布教された地域で飲酒文化の圧殺レベルが高いってのが興味深い。
 しかしまあ、ずいぶん無茶な旅行をしている人だよなあ…

日本ばちかん巡り

日本ばちかん巡り

 様々な新宗教の拠点を訪問した雑誌記事をまとめたもの。それぞれ、美意識と教団の歴史に規定された個性を持っているのが興味深い。あまり聞いたこともないような宗教の教団が取り上げられているのもおもしろい。
 もとの雑誌連載からは、教団のクレームに従って随分書き換えられているそうで、どう変わったのか読み比べてみたいところ。

驚きの介護民俗学 (シリーズ ケアをひらく)

驚きの介護民俗学 (シリーズ ケアをひらく)

 大学をドロップアウトした民俗学研究者が、職場の介護施設で、入所者から聞き書きした経験を書いている本。様々な移動を経た人々が入ってくることによる、経歴のおもしろさ。さらには、認知症が進んで話が聞けないと思われた人々とも粘り強くコミュニケーションをとることによって、生活史を相当なレベルまで描きだせるというのも驚き。
 同時に介護の現場の人手不足と、そのためにじっくりコミュニケーションをとってクオリティ・オブ・ライフを上げるというのは、難しい状況も指摘される。

  • 4位 山下亨編著『トイレが大変!:災害時にトイレ権をどう保障するか』

 災害でインフラが壊滅したときに、どのようにトイレを維持するか。トイレの利用しやすさし難さが、生命に直結する問題であること。水洗トイレに慣れた現在の日本人にはなかなか対処が難しい問題であることなど。様々な災害用トイレ商品の紹介など。
 防災関係者だけでなく、多くの人が読んでおいたほうがいいと思う書物。いや、阪神大震災の時に経験したけど、トイレがないと大変なんですよ。仮設トイレも汲み取りが大変だし。

  • 3位 ダン・コッペル『バナナの世界史:歴史を変えた果物の数奇な運命』

バナナの世界史――歴史を変えた果物の数奇な運命 (ヒストリカル・スタディーズ)

バナナの世界史――歴史を変えた果物の数奇な運命 (ヒストリカル・スタディーズ)

 春に固め読みしたバナナ関係の本からこれを。鶴見良行の『バナナと日本人』と両方入れたいと思ったんだけど、結局一冊しか入らなかったので、こちらを選択。
 バナナの栽培化と拡散。そして、19世紀に南米で大規模生産を行いアメリカ合衆国へ輸入する商売が出現して、それがアメリカの南米への帝国主義的な拡大のドライブになったこと。中南米の国や人々に与えた悪影響。さらに、グロ・ミッシェル種が疫病で壊滅し、それの代替としてキャベンディッシュ種が導入されるが、現在それも疫病の危機にさらされている状況などが語られる。
 最近、スーパーなんかに行くとバナナの銘柄をチェックする癖がついてしまって。

アメリカ大都市の死と生

アメリカ大都市の死と生

 都市論の古典的著作の新訳。旧訳よりも読みやすさは圧倒的に増している。
 住民の多様性の重要性。人々が歩くことによって、街路に社会が生まれるという指摘などは、非常に同感する。今読んでも、背景としている思想は今に通じるものがある。複雑系とか、エコロジーとか。

  • 1位 福野礼一郎『クルマはかくして作られる:いかにして自動車の部品は設計され生産されているのか』

 これはおもしろい。ジェイコブズを抑えて、これが今年一番。自動車を構成する部品がどのように作られているのか、生産現場を実際に訪れて取材したルポ。この本では、主に内装材を中心に取材しているが、自動車産業のすそ野の広さを目の当たりにする。本書は超、3と続きが出ているが、「超」では自動車の本体を扱うそうだ。熊本市内の図書館に入っていないというのが困ったもの。




 以下、次点:
瀬畑源『公文書をつかう:公文書管理制度と歴史研究』asin:4787233327
アイドルマスター アニメファンブック Backstage M@ster 特装版』 asin:4758012873
村井章介編『「人のつながり」の中世』asin:4634523566
高橋慶史『ラスト・オブ・カンプフグルッペ 3』asin:4499230977
ねずてつや『狛犬学事始』asin:4888482241
ケネス・ルオフ『紀元二千六百年:消費と観光のナショナリズムasin:4022599723
金田章裕『古地図からみた古代日本:土地制度と景観』asin:4121014901
宮島秀紀『伝説の「どりこの」:一本の飲み物が日本人を熱狂させた』asin:4041100410
須賀丈他『草地と日本人:日本列島草原1万年の旅』asin:4806714348
ロドニー・バーカー『川が死で満ちるとき:環境汚染が生んだ猛毒プランクトン』asin:4794208529
佐藤正之『船舶解体:鉄リサイクルから見た日本近代史』asin:4763404318
加藤忠一『ブリキとトタンとブリキ屋さん』
桜井英治『贈与の歴史学儀礼と経済のあいだ』asin:4121021398
青山潤『アフリカにょろり旅』asin:4062138689
エイミー・B・グリーンフィールド『完璧な赤:「欲望の色」をめぐる帝国と密偵と大航海の物語』asin:4152087706
鶴見良行『バナナと日本人:フィリピン農園と食卓のあいだ』asin:4004201993