今年印象に残った本2013(一般部門)

 今年も恒例のまとめ。フィクション以外全般を対象に。今年、読書ノートをつけたのは424冊。うち、ラノベが200冊強、マンガ100冊強で、この部門の対象は100冊程度か。夏場を中心に、今年はラノベに時間を投入したので少なめ。年末に思いっきり失速したなあ…
 以下、ランキング:

世界の野菜を旅する (講談社現代新書)

世界の野菜を旅する (講談社現代新書)

 野菜を題材とした紀行エッセイ。現地での食べ方や自分で育てた経験、その野菜の歴史といった薀蓄が活き活きと語られる。とりあえず、野菜が食べたくなる一冊。いろいろな食べ方があるんだなあと。

漁業と震災

漁業と震災

 漁業関係からは本書を。東日本大震災で大きな被害を被った東北地方の漁業が、どのような歴史的経緯を経て、どのような被害を受け、どのように推移していこうとしているのか。現場を良く見た本。震災からの復興に、現場を担ってきた漁協の役割を強調する。海産物流通を支える加工業や各種サービスまで目配りしているのが興味深い。一方で、各漁協の範囲をこえた遠洋・沖合の大規模漁業に関しては、やはり個別の規制が必要になるんじゃないかねえ。

  • 8位森公章『古代豪族と武士の誕生』

古代豪族と武士の誕生 (歴史文化ライブラリー)

古代豪族と武士の誕生 (歴史文化ライブラリー)

 今年は吉川弘文館の「歴史文化ライブラリー」で武士に関連する本を何冊か読んで、どれにしようか迷ったが、本書を入れることに。森下徹『武士という身分』や川岡勉『山城国一揆と戦国社会』もおもしろかっが。木簡や伝承、出土遺物などから、各地の豪族と王権との関係、さらに中世に移り変わっていく過程でこれらの古代豪族が武士団と一体化していく過程を精密に跡付ける。情報の厚みというか、乏しい手がかりを組み合わせての長いスパンの叙述がすごい本。

  • 7位太田猛彦『森林飽和:国土の変貌を考える』

森林飽和 国土の変貌を考える (NHKブックス)

森林飽和 国土の変貌を考える (NHKブックス)

 日本列島の森林利用の変遷を追い、現在の森林利用の低下が、新たな問題を生みつつあることを指摘する。近世から近代初めにかけて、森林に強い利用圧力がかかり、各地にはげ山が見られ、森林も非常に乏しくなっていたこと。しかし、戦後、エネルギー源や肥料などが石油ないし石油由来の化学物質に転換し、日本列島がかつてなく森林が豊富な状態になったことを指摘する。結果、土砂供給の低下による海岸の浸食や新たな形の森林の荒廃など、新しい問題が出現しつつあるという。

  • 6位稲川實・山本芳美『靴づくりの文化史:日本の靴と職人』

靴づくりの文化史―日本の靴と職人

靴づくりの文化史―日本の靴と職人

 幕末に洋装が紹介されてから定着していくまでの歴史、革靴生産が衰退していく状況や継承の試み、東京を中心に産地の紹介など。軍需産業としての革靴生産、特にロシアへの軍靴輸出が機械化につながった経緯などは興味深い。この種の軽工業は本当に、中国に持っていかれた感じだよなあ。

  • 5位平山昇『鉄道が変えた寺社参詣:初詣は鉄道とともに生まれ育った』

 関東や関西の大都市近郊で、寺社参詣のあり方が、鉄道とどう影響しあったかを追った本。鉄道会社が需要喚起の手段として寺社参詣を重視、有名寺社をおしたてて盛んに宣伝しあい、乗客を奪い合った。一方で、乗客輸送で利益を得たい鉄道会社と寺社や信仰する側の利害対立など。都市部のホワイトカラー層の影響力増大が、信仰のあり方にも影響している。

  • 4位鈴木勇一郎『おみやげと鉄道:名物で語る日本近代史』

おみやげと鉄道 名物で語る日本近代史

おみやげと鉄道 名物で語る日本近代史

 二冊続けて鉄道と観光関連。こちらは、日本独特の習慣である旅先で買ったお菓子類を近しい人々に配布するお土産の慣行が、鉄道とどのようにかかわりながら発展したかを追う。近世にその場で味わうものであった「名物」から、鉄道による旅の時間短縮によって食料品を持ち帰るお土産への変化。それに対応して保存性を増すなどの改良が施され、適応していった状況。駅での販売が評判を確立する「メディア」として重要であったことなど。とにかく、さまざまなお土産がどのように変わっていったのかを追った、労作。

  • 3位森杲『アメリカ職人の仕事史:マス・プロダクションへの軌跡』

アメリカ職人の仕事史―マス・プロダクションへの軌跡 (中公新書)

アメリカ職人の仕事史―マス・プロダクションへの軌跡 (中公新書)

 アメリカにおける大量生産の進展のなかで、職人の技能がどのように吸収されていったか。機械の導入に抵抗のなかったアメリカの職人が、積極的に機械化を推進し、大量生産に適応していったこと。しかし、さまざまな技能に熟練し、ゼネラリストであることを誇りにしていた職人は、フォーディズムに代表される巨大工場での生産への変化の中で振り落とされていく。単能的な熟練が支配的になり、工場の管理はそれを専門にするエンジニアに取って代わられていく。

  • 2位坂井洲二『水車・風車・機関車:機械文明発生の歴史』

水車・風車・機関車―機械文明発生の歴史

水車・風車・機関車―機械文明発生の歴史

 水車や風車など、非化石燃料動力によって発展した機械を、今に残る現物資料と当時の文献を元に詳しく解説する。水車や風車による製粉、製材などの機械が洗練された技術によって造られていたこと。工業化の立役者となったさまざまな機械は、このような技術的蓄積の中で発展していったことが分かる。木製の機械を丁寧に解説してくれる楽しい本。

謎の独立国家ソマリランド

謎の独立国家ソマリランド

 昨年の『イスラム飲酒紀行』に続いて。無政府状態ソマリアのなかで、独自に平和な「国家」を形成しているソマリランドを体当たりで取材したルポタージュ。ソマリ人たちの中に分け入って、最後は著者自身がソマリ人に感化されていく流れがおもしろい。なんというか、強欲で攻撃的なソマリ人だからこそ、紛争解決のノウハウが蓄積されているというパラドックス、その中で自分たちなりの「政府」を形成していく様子が非常に興味深い。




 以下、次点:
吉村豊雄『幕末武家の時代相:熊本藩郡代中村恕斎日録抄 上下』asin:4792406439asin:4792406447
吉田智子『江戸創業金魚卸問屋の金魚のはなし』asin:4800301599
吉梅剛『ぼくは「しんかい6500」のパイロット』asin:4875592760
河合雅雄林良博編著『動物たちの反乱:増えすぎるシカ、人里へ出るクマ』asin:4569708307
藤井非三四『「レアメタル」の太平洋戦争:なぜ日本は金属を戦力化できなかったのか』asin:405405708X
藤原辰史『稲の大東亜共栄圏:帝国日本の〈緑の革命〉』asin:4642057528
安丸良夫『神々の明治維新神仏分離廃仏毀釈asin:4004201039
圭室文雄『江戸時代の遊行聖』asin:4642057382
川岡勉『山城国一揆と戦国社会』asin:4642057579
近江俊秀『道が語る日本古代史』asin:4022599898
本康宏史『軍都の慰霊空間:国民統合と戦死者たち』asin:464203742X
細野昭雄『南米チリをサケ輸出大国に変えた日本人たち』asin:4478059942
森下徹『武士という身分:城下町萩の大名家臣団』asin:4642057471
須藤斎『海底ごりごり地球史発掘』asin:4569801641
小島剛一『トルコのもう一つの顔』asin:4121010094
亀田忠男『自動車王国前史:綿と木と自動車』asin:488520173X