速水融・小嶋美代子『大正デモグラフィ:歴史人口学で見た狭間の時代』

大正デモグラフィ 歴史人口学でみた狭間の時代 (文春新書)

大正デモグラフィ 歴史人口学でみた狭間の時代 (文春新書)

 題名のごとく、大正時代の状況を歴史人口学的に分析した本。歴史人口学、あるいは人口学の学説史に詳しい人ほど面白いのだろうな。私自身は、そのあたりの心得がほとんどないので、深い楽しみは得られなかった。
 大正9年から始まった国勢調査以前の人口についての統計情報、そこから得られる人口に関する指標、出生力の問題。ほかに、スペイン・インフルエンザや関東大震災など、短期的に人口に影響を与えるイベントなどについて述べている。
 個人的に面白かったのは、結核の話かな。開発原病?としての、結核。あるいは、人間の行動パターンの変化の結果、国民病となった側面が興味深い。ローリー・ギャレットの『カミング・プレイグ』に紹介されていた、眠り病の拡散と似ている。それでは、低地に工場が建設され、高地の住民が働きに出て感染する。それを出身地に持ち帰って、高地でも感染が広がるようになったそうだ。そのあたり、本書で紹介された、農村から紡績工場に働きに出て結核に感染、それを出身地に持ち帰るというパターンと相似しているなと感じた。