尾高煌之助『職人の世界・工場の世界』

職人の世界・工場の世界 (社会科学の冒険)

職人の世界・工場の世界 (社会科学の冒険)

 近代の工業化に、「職人」がどのような役割を果たしたかを追求した本。なのだが、いまいち問題意識が分からなかったり。どうにも経済学者の著作は苦手だ。労務管理とかそっち系統の議論の知識がないのが敗因か。
 幕末以降に導入された機械技術の受け皿になったのが、すでに職人として一人前になった鍛冶職や鋳物師であったこと。彼らは、軍の工廠や近代的な工場を渡り歩いて腕を磨き、その後独立したり、工場の請負親方として中心的な役割を担ったこと。大工場では比較的早い時期から、工場内請負による間接管理から直接的な労務管理に移行したが、中小では親方的な職人を中心とする体制が高度成長期まで生き残り、二重構造をなしたことを指摘している。
 一橋大学に所蔵している社史を利用した、企業に対する職人の貢献を追った第四章、第五章が面白い。この章では、宮田製作所など自転車企業がいくつか取り上げられているが、明治から大正にかけての自転車生産に関して、宮田や岡本はむしろ例外といった方がいいように思う。また、島野は第一次世界大戦後だから、当面の興味からは外れる。
 第七章の「職人の世界・工場の世界:労働過程変革の歴史理論」については、全く分からん。「工場」における職人あるいは職人的職工というのは、どうなっていったのか。ヨーロッパにしても職人や職人的職工というのはかなり根強く生き残ったように思えるし、直接的労務管理が一般的に普及したのはそれこそ第一次世界大戦以降だったのではないかと思う(兵器生産から見るに)。そのあたり、比較史として面白そうではある。また、日本では職人的伝統がかなりあっさりと消滅したという指摘が興味深い。


以下、メモ:

[海軍省艦政局] 『明治二十年工場表』『明治廿一年工場表』

 こういう史料があるようだ。公刊されていないようだが。