田代博『地図がわかれば社会がわかる』

地図がわかれば社会がわかる

地図がわかれば社会がわかる

 地図の入門書。地理院地図の解説やスマホのアプリの紹介が特徴か。私はスマホ持ってないんで、その分有用性が下がるが。つーか、あんまり位置情報とか、アプリに渡したくない…
 「今昔マップonWeb」とか、ああいう便利なの、熊本はなかなか対象にならないんだよねえ。熊本地震で、こういうのの整備が進むかもしれんが…


 第1章は、「社会と向き合う地図」ということで、地図が様々な社会的問題を明確に見えるようにするという話。ハザードマップの話やイタイイタイ病の原因解明に、患者の発生場所をプロットした地図が貢献した話、旧版地形図の話など。


 第2章は、国土地理院の地形図と地理院地図のお話。「図式」の変遷とか、販売数のランキングの話とか。地理院地図とか、旧版地形図の話など。
 南と北では、表示範囲が異なり、北に行くほど狭くなるというのは、なるほどなあと。同じ県内でしか見ないから、意識したことなかった。


 第3章は、地図の歴史。フランスのカッシーニ家による地図作成事業、国家からの援助が打ち切られて、民間から資金を集めて100年以上かけて作成ってのがすごいな。伊能図も、最初は手弁当だったわけだし、そういうモノなのだろうか。


 第4章は、地図関係のアプリとカシミール3Dの話。カシミールは使えるようにならないとなあ…


 第5章は、「地名と世界の地図」。地名に関する話題と、海外の地図の話が並列。
 地図の地名は、自治体に依頼して作成してもらった「地名調書」が基本資料になる。富士山頂のピークの地名が混乱している話。海外の地名の話など。外国の国名などが、現地読みでも、英語読みでもない、割とへんてこなことになっていると。これに関しては、長い時間かけて慣用的な読みが形成されているからなあ…
 ネパール、中国、スイス、ドイツ、旧ソ連、ブラジルの地図事情もおもしろい。大縮尺地図は部外秘の中国、ネット時代に対応するドイツ、複数の機関で作成しているブラジルなど。旧ソ連が作った日本の地図、欲しいなあ。


 第6章は、投影法の話。微妙に洋梨形をしている地表を平面に展開するには、いろいろと工夫が必要と。どうしても、長さ、面積、角度などをすべて正確に表示することはできない。
 形が不正確なメルカトル図法が、ネットのタイル方式と相性が良いため、復活しつつあるというのが、興味深い。あとは、北に行くほどでかくなる地図の表示が、日本人の世界観に影響を与えているのではないかと。日本列島の面積は、ヨーロッパの大抵の国の面積より大きいのに、小さく見えてしまう。そういえば、そうだなあ。ドイツやポーランドより、日本の方が広いのか。「The True Size Of」というサイトが紹介されている。

 前後しますが、1877年の西南戦争などの反乱鎮圧に際し、詳細な地図がなかったことを問題視した明治政府は、1880年に三角測量の成果にもとづかない大縮尺の地図作成を急遽実施しました。その測図法や作成された地図を「迅速測図」(「迅速図」)と呼びます。縮尺は2万分の1で、関東地方の平野部の迅速測図原図921図葉はフランス式彩色が施され、土地利用の様子がよくわかるように描かれていました(印刷時は黒一色)。経緯度は記されていませんが、一般的な使用には耐えられる内容でした。その復刻版は日本地図センターが刊行しており(右図)、農業環境技術研究所による「歴史的農業環境閲覧システム」でウェブ上で見ることもできます。p.94-5

 関東だけか。
 つーか、西南戦争に至るまで、大縮尺の地図の重要性に気がつかなかったというのが、明治政府の不明だよなあ。