- 作者: 加藤淳子
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 2011/06/16
- メディア: 新書
- 購入: 1人 クリック: 5回
- この商品を含むブログ (3件) を見る
柏崎への旅、業務、暮らし、人間関係や教育など、生活のこまごましたところが浮かび上がって来て興味深い。仮払いで給与を払った後、9月頃に決済する話や現金と米の支給が半々とか、どこの藩でも同じではないのだろうけど。あとは、基本的にはツケ払いで、盆暮れに決済している状況を見ると、貨幣経済とは言え現在とはだいぶ違う感覚、しかも割と最近までそういう生活が続いていたことがしのばれる。下の事務方が、上層の政治決定で右往左往する様とか、善光寺地震のお見舞い米300表を送るための調整業務なんかも興味深い。
病気についても、一章設けられている。やはり、この時代には健康を維持していくというのは非常に難しかったのだろうな。正直、私などは、この時代に生まれていたら速攻で死んでいたと思う。病気になっても、自力で直すしかないわけだし。柏崎陣屋では、肺結核での死者が多いが、やはり比較的狭い場所に密集してい住んでいると、猛威を振るうんだろうな。妻きくが出産のたびに健康を悪化させていくあたりも、現代医学と当時の衛生環境の違いを浮き彫りにする。自然な分娩ってのは、こんな有様なんだよって感じ。
明治維新後の渡辺家の変転。戊辰戦争で新政府軍に降伏し、桑名へ護送される中、勝之助の次男真吾がこの日記を持って行った話。その後の教員生活から対馬への移住など、かなりの環境変化を余儀なくされた状況を物語る。学制の発布で、教員を失業する状況とか。あと、息子は、長男が陸軍士官学校在学中に死亡、二男は巡査になっているあたり、士族がどこに吸収されたかを示しているように思う。
こういうのを読んでいく上で一番難しいのは、大事な所で用語の意味がわからないことが多いこと。そういうのは、粘り強く読み込んでいくしかないんだろうな。
メモ:
また、家の各所の補修は何でもする。壁塗り、流しの排水の加減、行燈の張替え、ごみ穴掘り、戸口の土盛り。たいていの物は造る。釣り竿、虫籠、孫の玩具、入り口の戸まで造ってしまう。マメで器用だったのも勿論だが、農作業も含めて物を造るのに確かな知識と技術を持っている。生産者としての農民と未分化であった時代の侍の伝統が、幕末になっても存在していた。p.87
昔の人って大概、なんか造れるよな。それが生活上も要求されたんだろうけど。下級武士だと内職とか菜園なんかで、自分で生産することも必要だろうし。