井伊春樹『ゴードン・スミスの見た明治の日本:日露戦争と大和魂』

ゴードン・スミスの見た明治の日本 日露戦争と大和魂 (角川選書)

ゴードン・スミスの見た明治の日本 日露戦争と大和魂 (角川選書)

 明治末に神戸で活動した博物学者ゴードン・スミスの日記から、日露戦争関係のところをまとめたダイジェスト。サクサクと一気読み。
 戦争を危惧し、傷病兵や戦争孤児の支援に奔走した人道家としての側面はよく分かる。ただ、この切り口がおもしろいかというと、どうなんだろう。博物学者・人類学者としての側面、あるいは港湾都市神戸の日常といった切り口もありえたと思うのだが。
 目の前の苦しんでいる人をみると、見ないふりをできないという点で、正義の人ではあるな。顕彰される価値はあると思う。ただ、その視野は目の前に限定されているというか。ロシアでも、同様に多数の傷病軍人や孤児が出たわけで。そっちまでは想像が及んでいない感じ。


 スミスと著者は、日露戦争時の日本人の行動や勝利に、精神性の問題を重視しているが、ここはどうなんだろうな。皮相な見方のような気がする。スミスは「規律正しさ」に感銘を受けているが、そんなにお行儀良かったのだろうか。軋轢なんかが見えていないだけなんじゃなかろうかと感じる。
 あと、

 スミスの日記には特派員ジョージ・リンチが、ロンドン・デイリー・クロニクル紙に寄稿した記事の切り抜きが挟み込まれており、概略を示すと次のような内容になる。日露戦争における日本の最大の勝利の要因は、日本人の勇猛さに帰するところは疑いようのない事実で、誰に聞いたところで答えは同じである。とりわけ「武士道」の精神は、従軍記者にとっては予想を超えるもので、日本人は死傷者を出しながら旅順でもどこでも前身を続けていった。これはイギリスの陸軍にとっても大きな教訓となりことで、軍事教育において日本の活力は重要で基本的に学ぶ必要がある。日本が軍事教練や高度な武器を持たず、どのようにして勇猛なる計画を実施し、連携をとりながら勝利に導いたのかは興味のあることといえよう。軍事演習や個人的な多数の証言などから得た経験からすると、ヨーロッパ軍の勇猛さは日本に比べて劣っていることは確信して言える。p.162-3

 うーん、日露戦争って普通に近代戦を戦って、普通に遅滞戦闘で奥地まで進出しただけに見えるけど。序盤は日本のほうが準備が整っていたのは確かだけど。そもそも、白兵戦ではぼろ負けだったとも言うし。
 このあたりの日本の「勝利」を精神論に帰する考え方自体に、人種差別的な意識が潜在しているのではないだろうか。