「知られざる被差別民『フーガ』:エチオピア:土地所有も不可公言はタブー視黒人同士の抑圧 根深く」『熊日新聞』06/4/5

 長年、差別され続けてきた悲劇の大陸アフリカ。そのアフリカでは、さらに黒人同士による差別が存在する。各国政府は国内での差別の存在を否定し、公に語るのはタブー。これまで注目されたことはほとんどなく、被差別民の数さえ分かっていないのが現状だ。エチオピアの被差別民フーガの人々が実態を生々しく語った。


 「われわれは非常に、非常に差別され、抑圧されてきた」。エチオピア南部の山岳地帯の町ドラメ。フーガの男性タクレラエボさん(三五)が語気を強めた。
 フーガは代々、陶器を作る職業集団で、「汚れた人々」として身体に触れることすら忌避される「不可触民」とされてきた。フーガのある女性は、他人のコップで飲み物を飲む際も「コップに唇を触れてはいけないので、手をコップの口に添えて飲む」と話す。
 一九九〇年代後半からフーガを支援する地元の非政府組織(NGO)「KMG」の関係者は「昔からフーガは人々の輪に加われず、少し離れて牛など家畜のそばに座っていた。私の母親も『汚らわしい』とよく怒鳴っていた」と実態を説明する。
 フーガに伝わる昔話がある。「昔、この地に七人の兄弟がやって来た。一人が殺され、フーガが後から来た。しかし、フーガは七人目の仲間として迎えてもらえなかった」。フーガの悲哀を表した話とみられる。
 タクレラエボさんは「われわれは公的な建物に立ち入ることすら許されていなかったが、KMGのおかげで初めて堂々と世に出て、こうして外国の記者にも名乗ることができた。これは革命だ」と興奮気味に語った。
 エチオピアにはフーガや皮革業のアワド、鍛冶を営むトゥマノのほか、奴隷などの被差別民が存在した。奴隷だけは今や姿を消したが、フーガなどに対する差別は激しく、土地も所有できないという。
 国連は一九六五年、人種差別撤廃条約を採択、人種や肌の色、家系・出自、国籍、民族による差別を禁止している。
 だが、国際NGO「国際ダリット連帯ネットワーク」によると、被差別民は今も世界に二億六千万人以上存在する。アフリカではエチオピア以外にも、セネガルなど西アフリカ諸国、ソマリアルワンダなど広範囲で被差別民が確認された。(エチオピア南部ドラメ共同=渕野新一)