桂木洋二『てんとう虫が走った日:スバル360開発物語』

てんとう虫が走った日―スバル360開発物語

てんとう虫が走った日―スバル360開発物語

 「てんとう虫」で有名な、初期の軽自動車の傑作、スバル360が開発される過程を描いた本。戦後中島飛行機が解体され、民需生産を行なう富士重工へと再編。その間に、バス製造から、自動車産業への参入を目指して乗用車P-1の試作、P-1の市販をあきらめ軽自動車の開発に転じ、スバル360がリリースされるまでを描く。しかし、モデルチェンジなしに、12年間生産されるってすごいな。それだけ基本設計が優れていたのだろうし、ある意味では発展性にかけたとも言えそうだな。重量385キロってのは、驚異的に軽いよなあ。ミニに、ビートルに、シトロエン2CVと、モータリゼーション初期に小型軽量安価で簡便ながら、自動車として十分な性能を備えた自動車の試みと言うのは良く見るな。まあ、ミニ以外は、一回り大きなものだが。
 360の前に開発されたP-1の話が興味深い。少数精鋭のスタッフで開発され、テストを重ねられ、完成度の高い車両として完成していたこと。にもかかわらず、結局のところ投資負担の大きさなどから、市販を断念し、スクーターのエンジンの延長線上で生産できる2ストロークエンジンを積んだ軽自動車へと方向を転換する。航空機会社の流れをくむ富士重工の高い技術力と、同時にそれでも自動車を量産はハードルが高いことを示していて、興味深い。
 スバル360はエンジンの排気量360cc以下、3×1.3×2以下という軽自動車の規格に収めながら、乗用車として遜色のない自動車を目指して作られた。大人四人がゆったりと乗れることを前提条件として、機械部分を可能なかぎり圧縮して作られたこと。エンジンの馬力の問題から可能なかぎりの軽量化が目指されたこと。等速ジョイントの問題から後ろにエンジンを積み、後輪で駆動するRR式にされたことなど、どういう経緯でそういう設計になったかを描いている。自動車の開発に試験が大事と言うのもよく分かる。
 10インチのタイヤを注文したり、高価なトーションバー方式のサスペンションを導入した一方で、初期にはメーターがスピード計だけで、燃料計もなかったとか、割り切り方がおもしろい。40万円の車で、トーションバー一本1万円を四本だから、すごい決断だよなあ。


 あと、48ページから52ページにかけて、初期の軽自動車が小磯勝直の『軽自動車誕生の記録』を引用して、1955年前後に販売された軽自動車を紹介しているけど、どこも零細で、数百台レベルなんだよな。それでもすごいと言えばすごいけど、それでは儲からないだろうな。後に残ったのは、スズキのスズライトくらいか。