米波保之『ジミ艦:だれも見たことないジミなマイナー艦船模型の世界』

 もう、第一部の海防戦艦とモニター艦が並んでいる時点で、感涙に咽ぶ本。
 本来、『ラスト・オブ・カンプフグルッペ』の四巻か、『世界の舷窓から』を買うための予算枠だったのだが、『モデルグラフィックス』のバックナンバーをめくっていて、見かけてしまったので。出た当時、買うつもりだったのだが、予算がつかないうちに、忘れ去っていた本。この機会を逃せば、そのまま忘れ去りそうだったので注文。
 これで、もう少し値段が安ければ、文句はないのだがな。4000円はきつい。


 タイトル通り、マイナーな艦船のフルスクラッチが並ぶ本。『ネイビーヤード』誌の連載をまとめたもの。雑誌の作例の細かくエッチングパーツを乗っけた作品と違って、ディテールは控えめ。ただ、制作された艦船の他での見なさは、群を抜く。
 全体は四部構成。
 第一部は「ジミ艦!ストレンジ」ということで、変わった格好の船が並ぶ。メインは海防戦艦とモニター。フィンランド海防戦艦イルマリネン、タイ海軍海防艦トンブリ第一次世界大戦から第二次世界大戦にかけてのイギリスのモニター艦、アバークロンビーとジェネラル・ウルフ。戦艦を改造したアメリカの対空砲術練習艦ワイオミングなど。
 モニター艦、やっぱりいいねえ。アバークロンビーとか、大好き。つーか、割りと有名な艦だが、ほとんどまともに活動できていないのか。45.7センチ砲を無理やり積んだジェネラル・ウルフの異形ぶりも良い。後者は、同型艦が『巨砲艦』に登場しているな。
 戦艦の武装を取り去って、練習用の対空火器を山盛り積み込んだワイオミングの異形ぶりもすごい。あとは、武蔵の砲塔を運んだ運送艦樫野とか、工作艦ヴェスタルとか。


 第二部は「オリジン」ということで、明治10年台の日本海軍の主力艦船や、空母の始祖である水上機母艦アークロイヤル(初代)が並ぶ。
 日清戦争で活躍した防護巡洋艦が揃う前の世代の船。装甲艦扶桑、コルベット金剛・比叡、スループ大和・武蔵。このあたりは、レジンキットが出ている船もちらほら。最近、この時代の船が好きで、こういう完成品が見られて、すごくうれしい。
 第一次世界大戦水上機母艦アークロイヤルも、こういう形をしていたのかという感じ。なんか、航空機運用能力は低そうだな。


 第三部はマイナーメジャーってことで、有名だけどあまり模型化されていない時期のものとかが多い。その後、プラモで出ている船もちらほら。
 雪風の後身丹陽、日本最初の空母である鳳翔、標的艦矢風、重巡洋艦加古の単装砲時代、砲艦宇治とその中国時代など。加古・古鷹の竣工時の模型って、確かにあまり見かけないな。
 鳳翔も、大戦後半は練習任務に従事していたあたり、確かにジミ艦だわ。個人的には、新造時の、先がすぼまった飛行甲板に、アイランド型艦橋の時代がかっこいいと思う。


 ラストは、日本海軍が第二次世界大戦で沈めた艦船。オランダ巡洋艦デ・ロイテル、アメリカの給油艦ネオショーと駆逐艦ウォード、イギリス空母ハーミーズ。どれも、あまり模型にはなりそうにない種族だな。イギリス最初の正規空母ハーミーズ、ジャワ海戦で撃沈されたデ・ロイテルあたりは、名前は有名だけど。
 アメリカのフラッシュデッカーって、個人的にはなかなかかっこいいと思う。昔はそれほどでもなかったんだけど、最近、煙突が多いのは正義って感じに変わってきて。第一次世界大戦時に、大量生産されたアメリ駆逐艦の一隻。太平洋戦争直前に現役復帰して、真珠湾攻撃直前に甲標的を撃沈。太平洋戦争最初の砲声を響かせた艦。のちに、高速揚陸艦に改造され、フィリピンで特攻機に撃沈される。なかなかの波乱万丈ぶり。
 アメリカの大型タンカーもなかなか。


 とりあえず、マイナー艦が好きな人間には大満足な本であった。