新見志郎『軍艦と装甲:主力艦の戦いに見る装甲の本質とは』

 船に金属の塊である装甲を取り付けるのが、いかに負担だったかと言う話。完全な防御を行おうとすれば、モニターのような航洋性を欠いた船にならざるを得ない。航洋性を確保するなら、機関や弾薬庫のみを防御し、他は損害を甘受する集中防御方式としなければならなくなる。
 19世紀後半には冶金技術の進歩によって、錬鉄による装甲から、鋼鉄と木材、錬鉄を組み合わせた複合装甲クルップ鋼などの表面硬化鋼へと変化していく。それらを利用したデザインの試行錯誤。さらには、装甲に対抗する砲の大口径・長砲身化でより重防御が必要となり、戦艦の排水量は大きくなっていく。
 ドレットノードに始まるド級戦艦の建艦競争、第一次世界大戦ジュットランド海戦の戦訓によって戦艦はさらに巨大化。最終的に、国家の財政を脅かすようになり、軍縮条約によって規制されることになる。ここに、恐竜的進化は押し留められ、海軍の中心から滑り落ちていくことになる。ドレッドノートの出現は、進歩の終わりだったと。


 第5章では、ゲームチェンジャーとなったドレッドノートの装甲を検証しているが、実は同艦は装甲帯が水没している。砲塔のバーベットの装甲が薄いなど、レイアウトに弱点が大きかったそうだ。それが、第一次世界大戦後半には、ドレッドノートが旧式艦扱いを受けた原因なのではないかという。
 しかしまあ、前代の標準戦艦より装甲は若干弱め、その代わりスピードが速くて巡洋艦的運用ができるって、なんかフィッシャー提督の好みドンピシャっぽいなあ。


 あと、ド級戦艦の頂点とも言える、ジュットランド海戦についてもかなりのページが割かれている。つーか、弾薬庫に引火して沈んだイギリス巡洋戦艦以外は、打たれ強いんだな。ドイツ巡洋戦艦部隊なんか、イギリス巡洋戦艦相手ならともかく、主力戦艦部隊にはボッコボコにされたとしか言いようがない。それでも、味方によって沈められたリュッツォー以外はどうにか生還しているという。デアフリンガーなんか、ものすごく浸水しまくってはいるが、何とか持ち帰られている。対するイギリスも、ウォースパイトなんか、敵前で舵機故障で一周回って、撃たれまくっているのに、中破どまりという。