白戸圭一『ルポ資源大陸アフリカ:暴力が結ぶ貧困と繁栄』

ルポ資源大陸アフリカ―暴力が結ぶ貧困と繁栄

ルポ資源大陸アフリカ―暴力が結ぶ貧困と繁栄

 アフリカ各地の暴力と格差の状況をレポートしている本。南アフリカ、ナイジェリア、コンゴスーダンソマリアを舞台として、資源と紛争の姿を描き出す。本書は、2000年代後半の状況を描いているが、その後、どうなっているのかな。スーダンでは南スーダンが独立し、ナイジェリアではボコ・ハラムの登場といった変化が起きているわけだが。しかしまあ、ブラックアフリカに特派員一人かあ。


 犯罪が日常化している南アフリカの姿。悪い立地の黒人居住地が改善されない状況。予防戦争として周辺国の内戦を誘発させた結果、生活基盤を崩され、心に傷を負った人々が、南アフリカ流入し、犯罪に手を染める。アパルトヘイト政策による暴力が逆流してくる。終章の、私立病院では高度な医療が提供されているにもかかわらず、医療費が払えない人にはほとんど機能していない公立病院しか提供されない、命の格差も印象的。そもそも、アメリカの医療制度があの体たらくでは、発展途上国でも改善されないだろうなあ。司直の底なしの腐敗ぶりもすごい。


 続いては、ナイジェリアとコンゴ。政府や各地の勢力が、資源からの収入で政府や軍事力を維持できるため、「公的」存在としての地道な努力が忘れ去られてしまう。ナイジェリアの製油施設によって、簡単に押しつぶされていく、ニジェールデルタの人々。油田の存在によって、環境を破壊されているにもかかわらず、一切公共投資が行なわれていない現状。政府の腐敗。そして、組織犯罪がはびこり、国際的な犯罪ネットワークの一つの核となっている状況。
 コンゴの状況もひどいな。秩序が回復して、政府の勢力が及んでくると、軍事力や鉱山利権の維持が難しくなるため、無差別に虐殺を行なったりして、混乱状態を維持する武装勢力。フツ人とツチ人の民族対立。ルワンダなど、周辺国の介入が混乱を拡大させる。せっかく資源があるのに、その富が内戦で浪費されてしまう。もう、なんとも。


 続いては、スーダンダルフール紛争。今までの三国は、底なしの腐敗って感じだったけど、この国は、ちょっと毛色が違う。外国人を監視する国内スパイ網が存在したりして、なまじ組織がしっかりしているだけに、邪悪さが漂う。まして、イスラム原理主義国家だしな。で、その体制を支えるのが、中国と。スーダンだの、ジンバブエだの、「まともな」国から爪弾きにされた国に手を出しまくっているな。この国でも、石油の輸出が重要な役割を果たしている。
 ダルフール紛争の原因もアレ。そもそも、地元の争いなら、あそこまで大きくならない。南スーダン独立運動に対抗するため、国軍の大半をつぎ込んでいたため、突然出現したダルフール武装勢力に対抗する兵力がない。そのため、アラブ系遊牧民民兵として組織化。反政府組織の兵站を絶つため、そして、そもそも民兵たちに兵站を供給せず「自活」させたため、大規模な略奪による人道危機が発生した。もう、あきれるしかない。


 最後は、ずっと無政府状態が続く、ソマリア。「無政府状態」といっても、それなりの秩序が自生的に形成される。武装した連中の、相互関係で、安全が維持される状況。中世の瀬戸内海の海賊みたいな世界だな。
 そして、イスラム法廷会議の攻勢。それによる安全保障の危機にさらされたエチオピアの軍事介入。それでも、ならず者の割拠状態から、秩序回復の実績があるイスラム法廷会議への支持。サウジアラビアスーダンから、イスラム原理主義の組織がNGOとして入り、人道援助などを行い、支持を拡大。そこから、原理主義政権が出現か。結局、イスラム原理主義の国際ネットワークの核は、サウジアラビアオイルマネーなんだよな。


 アフリカの暴力は、アフリカのみならず、世界中に拡散する。
 各地に散った移民や難民のネットワークで、世界中と接続する。ソマリアでも、ネットカフェが存在して、ウェブにつながる。各地に散った移民の送金で経済が維持される。イスラム原理主義のテロリストネットワークの隠れ家になる。ダルフールの反政府組織も、衛星電話などを駆使し、アメリカなどの支援者からの援助を受けて武装闘争を継続する。ナイジェリアの犯罪組織は、世界の麻薬密輸ネットワークの一つの中枢であり、日本を経由した密輸なども行なわれている。
 世界のどこかで、腐敗と無秩序が発生すれば、先進国も無縁ではいられないか。


 現状に関しては、ジェトロの『アフリカレポート』が有益そう→http://www.ide.go.jp/Japanese/Publish/Periodicals/Africa/backnumber.html


 以下、メモ:

 ガストロウ氏へのインタビューの中で、私が思わず膝を打ったのは「犯罪と格差」の関係についての言及であった。
「南アはアフリカで最も経済水準の高い国ですが、南アよりはるかに貧しい他の国々の方がずっと治安が良い。要するに、誰もが一様に貧しい社会では犯罪、特に組織犯罪は成立しにくい。巨大な所得格差が生じた時、貧しい側は犯罪を通じて『富』にアクセスしようとする。アフリカで突出した経済力を持つ南アは、アフリカ各地の犯罪者にとって『富』にアクセスできる場所であり、同時に世界的な犯罪の中継点にも使える国なのです」p.37-8

 格差と犯罪。まさにその通りだよな。
 しかも、南アフリカはお誂え向きに、官憲が腐敗しきっているという。

 だが、ナイジェリア経済に占める石油産業の位置は、もはや単なる「基幹産業」という言葉では言い表せないほど巨大だ。二〇〇四年の政府歳入の七十%は原油天然ガスの収益によってもたらされ、貿易に至っては総輸出額の九十四・二%を原油天然ガスが占める。そびえ立つ超高層ビルも、街を縦横無尽に走る高速道路も、すべては石油がもたらした富の産物。まさに「油は国家なり」である。p.94

 ここまでくると、資源も有害だな。この状況だと、真面目に地域の開発だの、教育だのをやろうなんて意欲は出てこないだろうな。
 ここまで石油への依存度が高いと、昨今の原油価格の下落が、どういう影響をもたらしているか…

 ナイジェリアはかつて世界一のパーム油生産国だった。オロイビリで油田が発見される前の一九五〇年代初頭には、ナイジェリアの輸出総額の約二十五%をパーム油が占め、当時は落花生やココアの栽培も世界有数の規模だった。アフリカで最大の人口(二〇〇七年推定で約一億四千八百九万人)を養うには農業を土台として食糧自給を維持し、雇用増につながる製造業を育成するなど産業の多角化を進める方法もあった。
 しかし、ナイジェリア政府は石油への全面依存の道を選んだ。一九六〇〜七〇年代の油田開発で産業構造は激変し、今や総輸出の九十%を原油天然ガスが占める。石油開発は多額の資本と高度な採掘技術が要求される資本集約型産業の典型であり、雇用創出効果は製造業と比べると低い。一億人を超える人口を抱える国で製造業が育たず、伝統的な農業も衰退していけばどうなるか。その答えをこれほど劇的に見せてくれる国もないだろう。ナイジェリアに残されたのは推定七十五%の異常な高失業率と凄まじい所得格差だ。p.126-7

 あぶく銭が、まったく身についていない感じだな。つーか、75パーセントの失業率って、どういう生活をしているのだろうか…

 こうした国民生活の壊滅的状況とは裏腹に、コンゴ経済は近年、数字の上では急成長を遂げている。成長の原動力が資源開発であることは言うまでもない。コンゴ北東部イトゥリ州の金鉱山開発に投資する南アのアングロ社の武装勢力との関わりについては既に記したが、この他にも南東部のカタンガ州での銅開発には既存の欧州企業に加え、中国企業も新規参入していた。海外資源企業による旺盛な投資の結果、経済成長率は二〇〇四年が六・三%、〇五年が六・五%、〇六年が五・一%、〇七年が六・五%と順調に推移している。p.170

 「経済成長」をしていても、ごみ収集もできない国…