「記者有論:大阪校閲センター日比野容子:アスベスト 復興災害、阪神の教訓生かせ」『朝日新聞』13/1/26

 深夜番組「11PM」の司会で知られ、昨年10月に79歳で亡くなった直木賞作家の藤本義一さんの死因は「中皮腫」だった。長女の中田有子さん(52)は、病名を聞いて不思議に思った。中皮腫アスベスト石綿)を吸うことで発症するがんの一つ。吸い込むと10年から数十年の潜伏期間を経て発症する。父はいったいどこで吸ったのだろう。
 中田さんは父の過去をたどった。生まれ育ちは堺市。近くに工場があった。でも製造していたのは農業機械で石綿は使っていないと言われた。40年前には兵庫県西宮市の住宅街に移り住んでいた。
 答えに行き着いたのは、亡くなった数日後。かかりつけ医が言った。「お父様は、震災の時に石綿を吸われたのだと確信しています」
 1995年1月の阪神大震災。全半壊したビルや家屋は約29万棟にのぼり、旧耐震基準の81年以前の建物が多かった。石綿建材の中で最も飛散性が高く危険とされる「吹き付けアスベスト」は、主に75年まで使われていた。
 藤本さんが住んでいた西宮市でも多くの建物が壊れ、千人以上が亡くなった。水道が止まり、土ぼこりが街を覆った。「静かな時限爆弾」と言われる石綿はこの時、藤本さんの体にセットされたのか。被災地では、地震から13年後の2008年以降、復旧作業の作業員4人が中皮腫を発症し、労災認定を受けている。中田さんは「石綿被害は誰にも起こりうる」と訴える。
 石綿はすでに使用・製造が全面禁止されているが、多くは既存の鉄骨・鉄筋コンクリート造りの建物の中に眠っているとみられている。国土交通省は09年、こうした民間建築物の数を約280万棟、解体のピークを今からおよそ15年後と推計した。だれもが石綿潜在的なリスクとともに暮らしているというわけだ。
 石綿の除去を進めるためには、リスクの高い物件を把握しなければならない。国交省が調べた全国448自治体のうち、建築物のアスベスト台帳を整備しているのは24自治体(5%)にとどまる。
 東日本大震災の被災地でも、倒壊建物の解体現場など17力所で、大気汚染防止法の基準を超える石綿の飛散が確認された。阪神の教訓が十分に生かされたとは言えない。
 地震大国の日本では、全国どこでも石綿被害が起こりうる。被災地が過去の負の遺産の代償を支払わされる。そんな「復興災害」を繰り返してはならない。

 阪神大震災では、建物の倒壊や解体にともなってアスベストが飛散。それによって中皮腫を発症して、亡くなる人が出ていると。
 今回の熊本地震でも、かなり飛び散ってそうだなあ。70年代あたりまでの建物、けっこう壊れてそうだし。下通りでも、修理の工事があちこちで行われているけど、飛び散ってないだろうな。大気中のアスベストの観測は必要そう。