- 作者: 大河内直彦
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2012/06/15
- メディア: 新書
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人類は、エネルギーをジャブジャブ使うことで、莫大な個体数を維持している。しかし、そのエネルギーの原資となる化石燃料は、生態系や地殻活動を通じて、炭素が固定埋蔵されたものを消費している。結果として、二酸化炭素の量が増えているだけではなく、酸素の分圧も低下している。大気から除去されてきた炭素を、大気中に戻しているわけで、なかなかゾッとする事態になっているのだな。そう考えると、地球システム内での炭素の循環とは関わりのないエネルギー源である原子力発電の有用性も見えてくる。もっとも、廃棄物が地質学的な期間、放射線を吐き出し続ける問題は、残るわけだが。
ここでは、化石燃料の利用の歴史だけに焦点が当てられているが、実際のところ、化石燃料利用そのものより、それを使って動力を取り出せるようになったことが重要なのではないだろうか。古くから人類は化石燃料を利用してきたが、蒸気機関の発明以前は、補助的な手段としてしか、利用されてこなかったわけだし。そう考えると、「生態系」改変のキーとして、蒸気機関の出現はものすごく重要だよなあ。鉱山の排水から始まって、徐々にその影響領域を広げていった過程も、非常に生態的というか。
窒素を大気から固定し、肥料に使えるようになったことの重要性。そして、その固定のために、エネルギーを使う。人間の個体数増とエネルギーの密接な関係。
あと、石油ができた原因である海洋無酸素事変の巨大さ。巨大火山の噴火で、温暖化が進行。生態系が崩壊したところで、シアノバクテリアが大繁殖。数十万年にわたって続く赤潮って、地獄だな。
以下、メモ:
グアノのおかげで、一九世紀半ばに急速に繁栄したペルーを横目で見ていた隣国のボリビアやチリは、ここぞとばかりに天からの恵みの獲得に乗り出す。硝石をめぐる争いは、何度も本格的な戦争にまで発展した。結局勝利の女神はチリに微笑み、おかげでこの硝石は「チリ硝石」と枕詞付きで呼ばれることになった。p.36
南米の「太平洋戦争」か。
化石エネルギーを歴史的に見ると、石炭にはじまり、二〇世紀半ばには石油へと移行し(エネルギー革命と呼ばれることもある)、さらに近年は天然ガスへと軸足が移りつつある。これら三大化石エネルギーの中でも、特に人類の思考回路に影響を及ぼしたのが石油である。
第二次世界大戦後、長期にわたって安定した安い価格で手に入れることができたことが、その最大の理由である。一九七三年に最初のオイルショックが訪れるまでの数十年間にわたって、一バレル(およそ一六〇リットル=一四〇キログラム)の石油がわずか二ドルほどだった。一リットルの石油の値段が、一セントあまりという計算だ。p.66-7
そういう時代に全盛期があったからこそ、アメリカはあの、エネルギーやら、資源を浪費するライフスタイルになったのだろうなあ。
しかし、石油価格の安いこと安いこと。
イギリスでは特に石炭の利用は早く、ローマ時代からすでに燃料として用いられていた。森林破壊の救世主となった石炭だったが、皮肉なことに別の環境問題を生じるようになる。一三世紀後半には、石炭の燃焼によって排出される煤煙がロンドンの空を覆うようになり、大きな社会問題となったのだ。人類によるはじめての大気汚染問題である。コークスを作る技術は、まだヨーロッパに伝わっていなかったのである。イギリスでコークスが独自に発明されるには一七世紀まで待たねばならない。p.73
へえ。13世紀には、既にイギリスで石炭の煤煙問題が顕在化していたと。この時期は、中世期で一番人口が大きくなった時期だから、森林の伐採圧力も高くなっていただろうしな。
歴史記録上で言えば、中川儀右衛門が石油を売り始めてからおよそ二〇年後の嘉永年間(一九世紀半ば)になって、はじめて臭水の精製方法に関する記述が現れる。越後高田藩より新潟刈羽一体で臭水稼業の特権を与えられた西村家は、酒を蒸留する釜を用いて臭水を蒸留する方法を編み出した。釜一杯に入れた石油をぐつぐつ煮て、先に蒸発する成分だけを集めて取り出すのである。こうすると硫黄成分の多くが取り除かれて、悪臭がかなり軽減される。p.77
江戸時代に、既に、新潟の石油は利用が始まっていたと。灯明として利用するには、石油の臭気が嫌われたので、蒸留して、販売していたと。
実は、石油は実験室でも簡単に作ることができる。そのレシピを簡単に紹介しよう。まず、有機物を多く含んだかつてのヘドロ、黒色頁岩を細かく砕いた粉末をフラスコに半分近く入れる。粉末と同量の水を加え、空気の代わりに窒素やヘリウムなど反応性の低いガスをフラスコ内に流しつつ三〇〇℃の高温でグツグツ煮てみよう。数日後、フラスコ中の水の表面には「石油」が浮かんでいる。p.136
これ、御船層群の頁岩でもできるのかな。
歩留まり、ものすごく悪そうだけど。
研究者の間で長らく予想はされていたものの、私たちにとって不可欠な酸素が大気中から徐々に失われているというショッキングなデータが現実に示されたのは、一九九二年のことだった。その後のデータも併せると、大気中の酸素濃度は年間三ppm、つまり〇・〇〇〇三パーセントの割合で毎年減少し続けている。
(中略)
人間は、環境中の酸素濃度が一八パーセントを下回ると、酸素欠乏症になって脳の機能低下を引き起こし、命を落とす危険にさらされる。現在の酸素濃度の減少速度を、そのまま延長していくと、いつ人類が絶滅するかがわかる。およそ一万五〇〇〇年後だ。
もっとも、酸素は水を電気分解すれば簡単に得られるから、実際にそんなことにはならないだろうが、これも結局はエネルギー頼みだ、この星に生まれた植物が、何十億年もかけて大気中に蓄積してきた酸素を、私たち人類はわずか数万年で食い潰そうとしているのである。p.194-6
人類ヤバイ。