今年印象に残った本2019(一般部門)

 今年は、例によって後半失速気味で、読む量が比較的少なめ。おかげで、本の選び出しも、それほど迷うことなく。去年に続いて、基本的に中世史の本しか読んでいないな。

10位 柳田快明『中世の阿蘇社と阿蘇氏:謎多き大宮司一族』

中世の阿蘇社と阿蘇氏 (戎光祥選書ソレイユ4)

中世の阿蘇社と阿蘇氏 (戎光祥選書ソレイユ4)

 とりあえず、今年は郷土史本が二冊ランクイン。こちらは、中世の阿蘇宮司家の盛衰を追った通史本。大宮司って、日々の神社の運営には関わっていないのに、神社の最高権力者って、なかなか謎だな。
 あとは、南北朝期以降、分裂と内訌を繰り返す状況とか。

9位 今和泉隆行『「地図感覚」から都市を読み解く:新しい地図の読み方』

「地図感覚」から都市を読み解く: 新しい地図の読み方

「地図感覚」から都市を読み解く: 新しい地図の読み方

 架空都市地図制作者の観点から見る、都市のパーツ。さまざまな施設が、地図上でどのような大きさに表示されるかとか、考えたこともなかったな。
 道路と住宅密度の関係とか、こういう見方があるのかと驚かされる作品。もう一度、読み返さないといけないな。

8位 谷口榮『増補改訂版 江戸東京の下町と考古学:地域考古学のすすめ』

江戸東京の下町と考古学 地域考古学のすすめ

江戸東京の下町と考古学 地域考古学のすすめ

  • 作者:谷口 榮
  • 出版社/メーカー: 雄山閣
  • 発売日: 2019/04/29
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 地域考古学の視点から、東京の東側の低地地域の人間活動の展開を紹介する。日本ではどこでも同じだが、平野部ってのは、割合最近まで水中にあったんだよな。そこを干拓・開発しながら人間が進出していった。
 河川が、人間活動の境界線になると同時に、遠隔地間を結ぶ交通路にもなる。

7位 堀淳一『誰でも行ける意外な水源・不思議な分水:ドラマを秘めた川たち』

誰でも行ける 意外な水源・不思議な分水―ドラマを秘めた川たち

誰でも行ける 意外な水源・不思議な分水―ドラマを秘めた川たち

  • 作者:堀 淳一
  • 出版社/メーカー: 東京書籍
  • 発売日: 1996/08
  • メディア: 単行本
 比較的訪れやすい、平坦な高原や平原に存在する水源や分水嶺を訪れた紀行集。片峠や河川争奪といった、興味深い地形が各種紹介される。河川争奪は、地図を見ていても、楽しい。なんで、ここの川、こんな風に流路が変わったのだろうかと、首をひねれて、長々と楽しめる。

6位 長澤伸樹『楽市楽座はあったのか』

楽市楽座はあったのか (中世から近世へ)

楽市楽座はあったのか (中世から近世へ)

 「楽市楽座」という歴史用語を、出てきた史料を検討することによって、どのようなものであったか明らかにしようとしている本。織田信長の「独創的経済政策」とされてきたが、実際には、それ以前から「楽市」という用語は、存在していたこと。信長の楽市楽座も、場当たりな安土城下町や織田配下に入った集落の振興政策に過ぎず、大きなパースペクティヴをもった経済政策は存在しなかったと指摘される。

5位 大畠正彦『ニューギニア砲兵隊戦記』

ニューギニア砲兵隊戦記―東部ニューギニア歓喜嶺の死闘

ニューギニア砲兵隊戦記―東部ニューギニア歓喜嶺の死闘

 ニューギニア島東部、歓喜嶺でオーストラリア軍一個師団を、一個連隊規模の支隊で支えた戦いを、火力支援を行った砲兵中隊指揮官の視点から描く。
 反斜面陣地と徹底した砲の隠蔽によって、相手に位置を掴ませず、それによって攻勢を粉砕する。敵を撃滅するために、徹底した数字メインの思考になるのだな。
 あと、地獄のニューギニア戦といえど、この時期には、まだ、相応の補給が行われている状況。さすがに、補給が絶えた後のことを書く気にはならなかったと見える。

4位 中井均・齋藤慎一『歴史家の城歩き』

歴史家の城歩き

歴史家の城歩き

 城郭研究者の対談本。片や文献史学、片や考古学と、バックボーンが違い、フィールドも関東と関西と違っているのが、相互補完的になっておもしろい。
 地域性や織豊系城郭の意義、ガチの城と見せる城。徳川が石垣をかなり後まで拒んでいた。逆に言えば、土の城で十分だったということなのかねえ。縦横無尽に城の歴史を語り尽くす本。

3位 金田章裕『日本歴史私の最新講義:江戸・明治の古地図からみた町と村』

江戸・明治の古地図からみた町と村 (日本歴史私の最新講義)

江戸・明治の古地図からみた町と村 (日本歴史私の最新講義)

  • 作者:金田 章裕
  • 出版社/メーカー: 敬文舎
  • 発売日: 2017/02/01
  • メディア: 単行本
 関西地方の各地に残された、村が作成利用した大縮尺絵図類から、どのような情報を引き出せるかを紹介する本。まさに、村が村内の土地を把握していたのだな。水争いや近代の制度改変に伴って、さまざまな地図が作成され、その情報からどのような変化が起きたのかが追える。

2位 若松加寿江『そこで液状化が起きる理由:被害の実態と土地条件から探る』

 災害本が二位にランクイン。
 近年の地震災害における液状化被害の状況、メカニズム、液状化が起きやすい土地の見分け方、地盤工事対策や建て物の復旧やそのための公的補助の存在など、至れり尽くせりの本。
 1964年新潟地震の面的な被害状況や東日本大震災の谷埋め造成地などの被害、あとは熊本地震では砂利の採取で掘り返されたところが被害を起こしているとか。地下水が高いところが危険。砂州でも、波浪でしっかりと締め固められているところは被害が少ないなど。
 液状化は繰り返し起きる、か…

1位 福田正秀『加藤清正と忠廣:肥後加藤家改易の研究』

加藤清正と忠廣 肥後加藤家改易の研究

加藤清正と忠廣 肥後加藤家改易の研究

 一位は、比較的最近読んだ本書。
 全国的に博捜して、加藤家関係の文書を解読。独自の加藤家像を紹介する。加藤清正は、秀吉死後、徳川親族大名といった立場で行動。徳川家の格別の庇護を受けて、幼君忠広の跡目相続や家臣団の内紛牛方馬方騒動など、他の家であれば改易される事態を乗り越える。
 しかし、家光への代替わりの際に、側室と庶子を密かに熊本に連れ帰る行為が、将軍家の庇護の限界線を突破。忠広は改易されてしまう。
 改易後の忠広の生活、そして、それを支えた家臣団の姿など、「改易後」についての記述が厚いのが特徴。改易後も、多くの人が関わり続けたのだな。
 あとは、知られざる養子百助の話など。一軍を率いて、朝鮮役でも活躍していた人物が、すっかり忘れ去られてしまうのだな…