北村嘉行編著『中小工業の地理学』

中小工業の地理学

中小工業の地理学

 とりあえず、自転車生産の歴史をどの視点で追っていくかの勉強の一環で借りてみた本。 個別の産業の事例集としては有用。都市部の工業、東京のアクセサリー生産や京都の仏壇生産の節は面白かった。そのような製品でも部品を集めて組み立てる分業が行われているというのは、興味深い。しかし、なんというか、地理学ならではという視角はなかった。90年代以降、アジアの安い製品との競争によって構造変化を強いられているという状況は共通しているが。あと、書いた人によって、編集とか校正がなっていない物があるのも欠点。
 問屋と小規模生産者で構成される工業というのは、本当に広い範囲に存在するのだな。


 あと、これは本書とは直接関係ないのだが、19世紀末から20世紀前半にかけての、都市雑貨工業に関連して、ちょっと思い出したこと。松井章『環境考古学への招待』でこんな一節がある。

 ここで、牛馬の骨の思いがけない使い道について、お話しておこう。皆さんの多くが毎朝晩、お世話になっている歯ブラシも考古学の対象となる。それは数年前、私の手元に届いた一人のアメリカ人考古学者の手紙から始まった。アメリカの都市考古学で出土する歯ブラシのうち、二〇世紀以降の遺構から出土する大半が日本製で、その柄に刻印されたインペリアル・ブラシ・カンパニーだとか、クレンゾーといったメーカーについて調べてほしいという問い合わせだった。p147

 『環境考古学への招待』を読んだときには、へえーと思いつつ読み流していたが、これこそが戦前の都市中小工業の製品なんだよな。逆に言うと、アメリカの出土遺物から情報から新たな視点が生まれてくるのかも。

環境考古学への招待―発掘からわかる食・トイレ・戦争 (岩波新書)

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