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- 出版社/メーカー: 洋泉社
- 発売日: 2018/08/02
- メディア: 新書
読み終わって、時間が経っているために感想が書きにくい。どうしても、返却期限のある図書館の本が優先されて、自分で買った本、特に新書は読むのも、読書ノート付けも後回しにされがち。
全体の構成は、4部構成、12編。
第一部「島津氏の系譜と分国内の諸勢力」、第二部「島津氏の外交政策」、第三部「島津氏権力の領国支配の特質」、第四部「近世大名島津氏への移行期」の構成。
目次を一見して、対外交渉・流通関係の論考が多いのが印象的。第二部、第三部にまたがって4編。中国、朝鮮、琉球との関係、それに関連する港津支配が「最前線」なわけか。逆に、家臣団編成や在地支配といったトピックは、後景に退いている感が強い。
あとは、近世移行期の島津義弘の政治的位置づけについてが目立つ。近世鹿児島藩の基礎となったこの時代に関しては、やはり関心が高いのだろう。家督継承予定者で「御名代」として、かなりの権限を委譲されていたのは確か。しかし、結局、近世の過程で、「当主」に付けずじまいだった。義久と義弘の間には、政治的指向の違いがあった可能性が高い、と。
さまざまな勢力を強く支配していたわけではない中世、特に室町時代、守護クラスの有力武家は、幕府の儀礼の体系を利用、セルフプロデュースすることで、優越的な地位を領国内で認めさせていた。位階などを含むさまざまな栄典授与や中央の文化の仲介が重要だった。このあたり、日向の伊東氏や本書の対象外だが阿蘇氏あたりも、該当する感じだな。そのために、かなりの費用を費やしているのも、それだけ有用な権威だったということなんだろうな。
秀吉の九州征伐の機会に、それぞれの勢力が、豊臣直臣となる事で独立を果たそうとしたが、豊臣政権はそれを認めず、島津家本家の権力強化を支援した。
以下、気になった論考をメモ。
新名一仁「一族の統制に苦悩した『島津本宗家』の変遷と諸勢力」
鎌倉時代から戦国時代に至る島津家の家督の変遷、そして、国衆との抗争。嫡系相続が続いてきたわけではなく、二度ほど庶流に移っている。特に、相州家は、四代前に分出した一族。また、これらの、薩摩大隅の各地に分出された一族、もともと東国御家人が入ってくる前から勢力を持っていた国衆たち、それらと、南北朝の戦乱や応仁の乱以降の戦乱で苦しみながら制圧してきた。
参考文献を見ると、熊本市近辺の図書館に所蔵がない本ばっかりでなあ…
米澤英昭「十六世紀、島津氏は港津・交易をいかに制御していたのか?」
島津氏の港津支配の状況。鹿児島県の港町は、当時、中国にも知られていて、海外貿易の最前線を担う有力者は、さまざまな舶来品を蓄えていた。そういう有力商人を、港町を管理する役人として登用することで、交易や港津の支配を行った。
造船や「家久君上京日記」に見える山陰地方の各港で島津家久を接待する商人たちの姿が興味深い。
吉本明弘「南九州のシラス台地に築かれた謎の城郭群」
「南九州型」あるいは「群郭式」と言われる、シラス台地に立地した城郭の紹介。同じくらいの規模の郭が並列する広域の城郭が多数存在する。しかし、その具体的な機能、どのような階層の勢力が郭一つを占拠したかも、よく分かっていない、と。
意外と、こういう基本的なことがわからないよなあ。