鳥羽徹『天才王子の赤字国家再生術7:そうだ、売国しよう』

 ロウェルミナが帝位に就く目がないなあと思っていたら、こういう風にチャンスを作り出すのか。一方、長男でありながら、狭量さから帝国をまとめられなかったディメトリオが憑きものが落ちたように浄化されるラストが印象的。


 ミールタースでの失敗から、求心力が低下したディメトリオは、戴冠式を強行することで失地を挽回しようとする。三皇子+ロウェルミナの憂国派閥からアプローチを受けたウェインは、ロウェルミナに付くべく帝都に向かうが、それは罠であった。一番勝ち目の低いディメトリオを押し付けるロウェルミナの策にウェインは乗った上で、掛け金を釣り上げる策にでる。ここいら、前巻の身代金つり上げと同じ手法だな。


 次々と、策と策がぶつかり合う展開。
 最初はディメトリオと第二皇子バルドロッシュの正面決戦。続いて、ナルシラを押さえたバルドロッシュが洗礼式を行うと宣言すると、帝都を押さえていた第三皇子マンフレッドがバルドロッシュに決戦を挑む。
 その間、マンフレッドは、ディメトリオの介入を防ぐために、領地での反乱を使嗾。足止めを行う。ついでに、バルドロッシュ軍に毒を盛るとか、やるなあ。


 一方、ウェインは、独自にナルシラでバルドロッシュの洗礼式実施を煽った上で、ディメトリオ派の所領で起った反乱を、さらに悪化させて、バルドロッシュ・マンフレッド両者の領地まで広げることで無力化させる。裏でえげつない手を使ってくるなあ。


 最終的に、聖地ナルシラに残ったのはディメトリオ。彼の皇帝就任は動かないと見られた。しかし、最後の最後で、ロウェルミナの策が炸裂する。ディメトリオが前皇帝の実子でない疑惑を、皇妃の日記から拾い出し、宰相にけしかける。
 最後の最後で足を掬われたディメトリオ。しかし、母親の「呪い」を克服し、新たな門出を迎える。一方で、ディメトリオから、洗礼式を実施するように要求されたロウェルミナは、皇位レースに名乗りを上げることになるが、一方で、元から率いていた憂国派閥は解体してしまい、窮地に追い込まれることになる。なかなかの意趣返しだなあ。


 しかし、帝国の官僚機構を握るケスキナルが、これまた、食わせ物だなあ。第5の勢力か。