- 作者:水口 博也
- 発売日: 2020/11/12
- メディア: 単行本
ロス海への航海に使ったカピタン・クレブニコフ号は、ネットで検索すると、ロシアの砕氷船らしい。今時は、本格的な砕氷船を民間チャーターできるのだな。
南極の生態系が、温暖化によって悪影響を受けている様が印象的。ここ20年くらいのスパンでも、観察して気付くほどの変動が起きているのか。
生態系を支えるのは、世界でも高濃度に発生するナンキョクオキアミであるが、南氷洋の海氷の量によって、その生存量は左右される。しかし、温暖化によって、オキアミの幼生を保護する海氷は減少。特に、南極でも南に張り出した南極半島の西岸は、海氷の減少が顕著になっている。結果、大量死の危険が存在する。実際、アデリーペンギンは減少傾向にあるという。
しかし、人間がすでに南氷洋に与えた生態的影響の大きさ。
捕鯨でシロナガスクジラを捕りまくったため、オキアミ資源の消費が減少。そのニッチに入り込んで個体数を増やしたのが、カニクイアザラシであるという。
南極半島の亜南極化という指摘も興味深い。緯度が比較的低い南極半島では、海氷の減少によって、オキアミ資源への依存と餌取りに休憩場所の海氷を必須とするアデリーペンギンは、住みにくくなりつつある。一方、亜南極の島嶼に生息するジェンツーペンギンやヒゲペンギンは、近場で採餌を行い、繁殖シーズンも遅いため、環境変化に適応しつつある。一方で、他の南極地域では、多少海氷が減って、過ごしやすくなって、個体数を増やしているという。
というか、「温暖化」といっても、高緯度地域では、遅い季節の嵐であちこち凍りついたり、逆に生活しにくい環境になるんだよな。北極を扱った本でも、そういう話が出ていたが。
シャチやヒョウアザラシの話もおもしろい。ペンギンの営巣地の前の海は、捕食されたペンギンの残骸で一杯…
第二章は、南極大陸から少し離れた島、サウスジョージア島を訪れた時のエピソード。こういうところでも、かつては、捕鯨基地としてノルウェー人が滞在していたという。オーストラリア近海の南極島嶼も、同じように人が住み着いていた過去があって、ネズミ固有の生物を食い荒らしたり、家畜を放して、それが野生化したりという影響を与えている。サウスジョージア島には、トナカイが野生化していて、最近、駆除されたとか。トナカイ強い。サウスジョージア島程度に南の島嶼だと、自生の植物が繁殖しているのだな。
オウサマペンギンがオキアミ以外の餌資源、ハダカイワシなどを主に利用しているため、他と競合を避けて、20世紀に急速に数を増やした。一方で、クロゼ諸島では個体数を減らしているなど、生息地でコントラストがあるという。
また、サウスジョージア島は、ナンキョクオットセイの大繁殖地でもある。19世紀あたりには、人間の捕獲圧で絶滅寸前だったが、皮革需要が減り、鯨類のオキアミ消費が減ったことで、爆発的に個体数を増やした。しかし、95パーセントがサウスジョージア島を繁殖地にしているというのは、将来的には脆弱性高いなあ…
ナンキョクオットセイと、オキアミ資源で競合するマカロニペンギンが、効率で負けて、個体数を減らしているというのも印象的。胃の中に貯めて持ち帰らなくてはならないペンギンは、いったん消化吸収して母乳に変換する哺乳類と比べて、頻繁に行き来しなければならないという。
こういう寒冷な場所に生きる生物は、皆換毛で、毛を新しくする必要がある。で、エネルギーを消費する換毛の時期は、どの生き物も集まってじっとしているというのがおもしろい。
船上で撮った写真から足環の番号が分かって、問い合わせた結果、そのワタリアホウドリが30歳以上の年齢だと分かったエピソードも印象深い。
最後は、南極半島と昭和基地の中間あたりにあるロス海。砕氷船でガシガシ割らないといけない海。
この地域では、温暖化によって、海氷に隙間ができやすくなって、逆に、アデリーペンギンが活動しやすくなっている。また、より海氷と氷河に適応して、定着氷上で子育てをするコウテイペンギン。冬期の海水温が高く、海氷が少ない年は、餌不足で生存率が下がるという。また、棚氷の崩壊に伴って、ウェッデル海では、徐々に南に繁殖地を移しつつあるが、そこの氷が崩壊したときに、逃げ場がない。
あと、氷床の大崩壊で巨大氷山ができたと良く報道されるが、あれ、最終的にどうなるかと思ったら、南極周りの海流の影響で、南極海から出てこないんだな。ぐるっと南極大陸の周りを回りつつ、崩壊していく運命なのか。