『世界の傑作機:強風、紫電、紫電改』

 水上戦闘機強風と、それから発展した陸上戦闘機紫電紫電改を扱っている。紫電改は343空の活躍で最末期の名機として扱われているけど、微妙に間に合ってない兵器だよなあ。じゃあ、間に合った紫電はフィリピンでどの程度の戦果を挙げたのか。自滅で消えた扱いだけどほんとのところどうだったのだろうか。最初から胴体の改設計を行って低翼機にしていた場合、フィリピン戦に間に合ったのか。いろいろと考え込んでしまう飛行機だよなあ。
 まあ、紫電改はF6Fとは互角に戦える機体だったのは間違いないだろうけど。


 強風の写真をいっぱい見たのは初めてだけど、直系の大きい火星エンジン合わせた太い胴体、独特のカウリングがいいなあ。基本的に寸胴戦闘機がなんか好きなんだよね。雷電とか。
 しかし、水上戦闘機が活躍できる時期はとっくに終わっていて、100機弱の少数生産であまり活躍していない。東南アジアでは重爆撃機の邀撃に出撃している程度、と。武装について言えば、零戦から火力が強化されているわけではないのが厳しいな。


 その後、これを陸上機化する構想が川西飛行機から提案され、受け入れられる。それで作られたのが紫電。しかし、経験不足であちこちの信頼性に欠けたのと、なにより中翼で伸縮式の主脚が事故を起こしやすくて問題だった。しかし、陳腐化した零戦よりもスピードが速く、火力が強力で、運動性や航続力も悪くないというのが魅力だった、と。
 結局、いろいろあって米軍戦闘機と互角以下の戦いしか出来なかったわけか。


 で、最後に胴体を徹底的に改設計して、低翼にした紫電改が登場。各部の信頼性も上がって決定版。最末期には集中生産の対象となっている。生産性を考慮した設計で、末期も末期、本土空襲による被害に遭いつつも400機の生産はできている、と。


 鳥養鶴雄「技術ノート:『強風』から『紫電改』へ」が今いっちょ理解できないけどおもしろい。エンジン選定で機体のアウトラインは決まってくる。で、翼面荷重をすこし高めの150㎏/㎡と比較的格闘戦寄りに設定した。それが紫電改まで引き継がれる。多少格闘戦に色気を出した選択、と。あと、プロペラ機は収縮流になるから、風洞試験をそのまま引き写した流線型の真ん中が太い設計はあまり意味が無い。中島の疾風のように絞り込んだスリムな胴体が正解だったという。
 水上機が頭打ちの中での川西飛行機の新市場が戦闘機。強風を改設計した陸上戦闘機の提案を、零戦以降の戦闘機が軌道に乗っていなかった海軍は受け入れ、誉エンジン搭載の戦闘機が構想される。しかし、中翼という戦闘機に不向きなハード、開発中のエンジン、戦闘機の安定操縦性に未経験な設計チームが合わさって微妙戦闘機が出現した。胴体の改設計をきちんとするべきだったと指摘しているのが興味深い。
 やはり、最大の問題は中翼に無理矢理あわせて設計された主脚か。無駄に複雑な主脚の伸縮機構が事故を多発させる。太い胴体は抵抗になる上に、エンジンとの隙間でエンジン冷却効率を低下させると良いことなしだった。それらの状況を見て、速攻で胴体の設計変更。低翼化で主脚のトラブルがなくなった。また、テイルアームが延長されて方向安定性がむしろ強すぎるレベルになった。これによって、エンジンや翼面積から期待される性能が発揮されるようになった。しかし、この回り道で、活躍の範囲が極狭くなってしまったという。