菊地浩之『日本の長者番付:戦後億万長者の盛衰』

 買ってから積んであった本を、同著者の本を何冊か手に取ったついでに撃破。
 2005年まで毎年発表されていた「高額所得者公示制度」の上位10人を毎年分紹介しつつ、どのように顔ぶれが変化してきたのかを紹介する。しかし、時代によってきれいに変わるものだなあ。
 あと、結局フローな現金収入に課税されているから、本当の資産家はあんまり捉えられていない感じがする。占領期の「富裕税」とのメンツの差がそれを示しているというか。


 第一章は1947年から1953年にかけて。「新興成金と炭鉱業者の時代」というタイトル通りの展開。47年から48年あたりはヤミ物資を転がして大儲けした人間がランクイン。インフレの時期には納税を先延ばしするのが有利なのか。47年の加藤尚・坪川信一は福井県の経済界に確固たる地位を維持していたようだし、浮沈も一様ではないのが興味深い。あと、47年2位の池田重利は中央紡績・銀丁百貨店ということは、熊本の財界人か。
 49年以降はデフレ政策でメンツが一気に変化。朝鮮戦争の特需も加わって、炭鉱業者がメインになる。中小の炭鉱業者は「匿名組合」など個人名義で経営していたため、課税対象として目立ってしまっていたという。
 一方で、次の時期の先駆の様な事業者、ペニシリン製造の長島銀蔵、真珠の御木本幸吉、邦文タイプライター製造の黒沢貞次郎のような人々も見られる。


 一章番外編の富裕税ランキングも興味深い。三井住友の財閥当主がランキング上位に姿を現す。つーか、これ岩崎家がいないのはなんでだろう。財閥の家、ビジネス上は目立たなくなるけど、土地なんかを持っていて富裕層のままだったんだな。あとは、松下電器松下幸之助ブリジストン石橋正二郎、ヤンマーの山岡康人といった次の時期の主役が現れていたり。あるいは、地方財閥中部家とか、山林巨大地主諸戸家とか。


 第二章は1954年から1968年。「松下幸之助の時代」と名付けられているように、トップを松下幸之助が占める時期が長い。経済が発展して購買力が上昇。商品供給の大企業が叢生、株式公開で巨富を得た人々が並ぶ。
 モータリゼーション関係者があんまり出てこないのが印象深い。自動車そのものに先行してブリジストンの関係者が上位に出てるのは海外輸出が大きかったのだろうか。1963年にホンダの本田宗一郎が出ているくらい。
 三洋電機井植歳男パナソニック松下幸之助といった電器会社。大正製薬上原正吉大塚製薬の大塚武三郎といった製薬会社。鹿島建設の鹿島守之助や竹中工務店の竹中錬一、熊谷組の熊谷太三郎、大林組の大林芳郎といった建設業界が目立つ。あとは、出光興産の出光佐三とか。
 後は不二家の関係者が1962年に複数ランクインしているのも印象深い。


 第三章は1969年から1982年。土地成金の時代。1969年の土地税制改革で土地売却益への課税が10%と優遇されるようになったため、土地売却で上位に出てくる人間が増えた時期。正直、このあたりあんまり面白くないな。
 戦後最初のゴルフ場を造成し、大衆化への道を開いた新日本観光興業の佐々木新太郎、江東区新砂の土地を汚水処理場用地に売却した長谷川万治あたりが興味深いかな。後者の木材問屋は今も残っているようだ。あとはダイエー中内功が出てきているが新世代企業の先駆といったところか。財閥の家系が依然として土地持ちだったとか。
 渋谷駅前の商店街でタバコ店を営んでいたけど、固定資産税が払えなくなって土地を手放した1979年の2位の人とか、外部条件に翻弄された感じでなんとも言えない感。


 第四章は1983年から1991年。バブル景気の時代。所得税法が変わり所得税額で表示されるようになった。そのため、土地の売却による所得が過小評価されるようになる。それでも、土地や株売却で上位に入ってくる人間が多いんだよな。相続税対策の売却が目立つのも興味深い。
 佐川急便の佐川清が事業者系では新顔。
 あと、炭酸水のウィルキンソンのもともとの会社、ウヰルキンソン・タンサン鉱泉の元社長が出ているのも興味深い。1985年に土地を売却してスイスに隠棲しているが、会社の売却は1983年なのかな。


 第五章は1991年から2004年。「再び創業者の時代へ」ということで、創業者が株式公開で巨富を得る時代に。1992年のトップはリクルート事件で創業者が株を吐き出させられた所得か…
 武富士・プロミス・関西クレジット・レイク・アイフルといった消費者金融、パチンコメーカーのアルゼ、タイトースクウェア任天堂といったゲーム会社、その他 ゼンリン、アートネイチャー、マクドナルド、カルチュア・コンビニエンス・クラブ、DHC、ソフトバンクなどなど名前を聞いたことがある企業が並ぶ。
 つーか、タイトーってウクライナ人創業なのか。
 健康食品販売の斉藤一人が異彩を放つなあ。課税をあえて回避せず個人事業にしているという。
 ラストの2004年にヘッジファンドの実質的所有者が入ってるのが時代という感じだな。


 ラストは、長者番付公開終了後も含む、フォーブス日本版がつくった「日本の億万長者」の上位10人を紹介。よく見かける企業が並ぶけど、なんかブラック企業が多くないか。


文献メモ:
市川洋『長者番付の研究』講談社、1991
 1500位以内に四回以上入ったの属性や人物を研究した本だそうで、こっちの方が個人的には好みかな。


原山浩介『消費者の戦後史:闇市から主婦の時代へ』日本経済評論社、2011
高木勝一『日本所得税発達史』ぎょうせい、2007
溝口敦『サラ金商人』現代書林、1983


 以下、適当に検索して見つけたページ。人名や企業名を追っかけていくとおもしろそうだけど、無限に時間がかかってしまうのが…
ja.wikipedia.org
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 平仙レースというのがちょっと興味ある。一時期高い評価を受けたけど、サクッと消えてしまった企業。
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