阪本寧男『雑穀のきた道』読了

雑穀のきた道―ユーラシア民族植物誌から (NHKブックス)

雑穀のきた道―ユーラシア民族植物誌から (NHKブックス)


網野善彦・塚本学・坪井洋文宮田登『日本文化の深層を考える』(ISBN:4888881070)に著者の名前が言及されていて、興味を持った。
世界各国の雑穀の状況(1980年代頃の)や、各地の雑穀の相互伝播の有様の追求など、非常に興味深い。
各雑穀の栽培化についての議論などは、その後の、ゲノムの分析などの手法などによって、かなり変化していると思われるが、それでも本書の価値は消えないと思う。
文化財としての雑穀」という視点は、もっと強調されてもいいのではないか。


本書で、個人的に一番興味を持ったのは、ヨーロッパでは比較的最近までキビが広い範囲で栽培され、庶民の食料として重要な位置を占めていたという記述である。
ヨーロッパの穀物栽培といえば、小麦・大麦・ライ麦といったムギ類が全てと考えていた。大学時代に、近世低地地方の農業生産について勉強したが、キビやアワといった雑穀類に言及した研究書を見た記憶はない。
グリム童話の「おいしいおかゆ」の話や古代の文献、19世紀フランスではキビの栽培面積が3万5千ヘクタールであったことなど、本書の情報は、ヨーロッパでもキビ類がそれなりに重要な地位を占めていたことを示している。
また、p.114の表Ⅲ-1からは、アムステルダムで、1400-1900年にかけての遺跡からキビが発掘されていることが分かる。
低地地方でもキビが栽培され、流通していたことを念頭に、中近世の農業に関して、見直してみるのも面白いかもしれない。ファン・デル・ウェーの本を読み直してみるか。