ヤン・ライケン『西洋職人図集:17世紀オランダの日常生活』

西洋職人図集―17世紀オランダの日常生活

西洋職人図集―17世紀オランダの日常生活

 17世紀に出版された「職人図集」のリプリント・翻訳。
 解説によると、必ずしも現実を忠実に描いたものではないそうだが、個々の職人の作業や道具はかなり正確だそうで、参考になる。じっくり見ていると、どんな工程かよく分からないのがあって、それが逆におもしろい。金線工やより糸製造職人なんかがその例。帽子はフェルトをこねて型に入れて作るそうだが、なんかすぐに傷みそう。
 あと、時代や地域を反映した絵も興味深い。海運国オランダを反映したビルジポンプ職人や船大工、海外貿易の中心であったことを反映した製糖職人やダイヤモンド細工師などの職種はその例だろう。また毛織物関係の職人に縮絨工がいないのも、その例か。中世には、縮絨工は都市の騒乱などで活躍しているが、この時代には水車や風車を利用したものになって、職人は存在しなくなったのだろう。製糖職人については、「精糖」職人の方が良かったのではないか、オランダでは熱帯で生産された粗糖を精製する活動が中心だったのだし。
 解説も興味深い。ライケンと司馬江漢のかかわり、ライケンの生涯と再刊の履歴、職人図の伝統などが解説される。第6節の「装われた写実」は特に重要。当時の社会通念やライケン自身のイデオロギーから、必ずしも正確に現実を写したものではない。現実は女性が労働力として重要であったのにもかかわらず、女性は家事労働をすべし的なイデオロギーを反映してあまり描かれていない。また、絵の中では職人たちは勤勉に働き仕事場は清潔だが、現実には貧困や職業病など苦しみがあった。しかし、ライケンは仕事に背後に神の恩寵を見ていたためそのような表現になったと指摘している。


翻訳されたヨーロッパの職人図には、
ヨースト・アマン『西洋職人づくし』岩崎美術社 1970(16世紀の出版)
ポール・ロレンツ監修・F・クライン=ルブール『パリ職業づくし:中世から近代までの庶民生活誌』論創社 1998
があるようだ。