瀬戸口明久『害虫の誕生:虫からみた日本史』

害虫の誕生―虫からみた日本史 (ちくま新書)

害虫の誕生―虫からみた日本史 (ちくま新書)

 近世から第二次世界大戦期にかけての人間の虫に対する態度の変化から、自然観の変化を明らかにする。
 近世の「災害」やたたりとしての虫害の認識。それはかなり後の時代まで残存する。その一方で、農業害虫の発見、衛生害虫の発見。「伝統的世界観」と近代的自然観の対立と、後者の強制。そこに「公益」の観点が強調されていたこと。 両世界大戦と応用昆虫学の関係。殺虫剤と軍事の関係。そして、「科学の体制化」と論じられる。
 たかだか200年くらいでの自然観の変貌のしかたには、唖然とするものがある。また、昆虫への見方の変化から、「身体的規律化」などいろいろな問題に接続することができそうだ。その意味でも、非常に興味深い本だった。
以下、メモ。

 本章では日本において、蚊やハエが〈衛生害虫〉として排除の対象となる過程を見てきた。ここで注意しておかなければならないのは、「病気をもたらす虫」をめぐる科学的な知見が。〈衛生害虫〉を排除することに直結したわけではないということである。ハエが病気を媒介することが明らかにされたのは十九世紀末のことだが、日本で「蝿取りデー」が始まったのは、「清潔」な都市の形成が目指されるようになった1920年代のことである。このように「害虫と人間の関係」は、科学的な発見によって突然変わるものではなく、科学研究の進展と社会的な文脈の両方が絡まり合いながらゆっくりと変容していく。p.130-1

 このような国家と科学研究の不可分の関係を「科学の体制化」と呼び、それが戦時体制を通して確立されたと論じたのが、科学史家の廣重徹である(廣重徹『科学の社会史』)。廣重が1970年代に提示した科学の体制化論は、その後の科学史家たちに大きな刺激を与え続けてきた。それにもかかわらず、戦争が生物学や農業技術に与えた影響については、これまでほとんど取り上げられてこなかった。p.138

「科学の体制化」ね。後で調べよう。