「オピニオン新内閣への注文:水野和夫さん 三菱UFJ証券チーフエコノミスト:ゼロ成長時代のモデル築け」『朝日新聞』09/9/18

 パイを大きくすればなんとかなった時代は石油危機で終わったのに、自民党はゼロ成長時代への転換を図ることなく成長にこだわり、インフレとバブルでつじつまを合わせてきた。それは結果として、せっかく築いた一億総中流社会を崩し、入れ替え戦のない1部と2部のリーグに社会は分断されてしまった。
 子ども手当とか高校までの教育費の事実上無料化といった民主党の政策は一見バラマキのようだが、本来は分断された社会を元に戻す努力の表れだ。

 このあたりは激しく同意。70年代から80年代に日本社会の「近代化」が終了し、新たな段階に対応した政策を構築する必要があった。しかし、それは30年以上果たされていない。本来ならバブル期の金があるうち、あるいは90年代前半のまだ財政が悪化する前に、対応が行われるべきだったのだろう。そもそも、21世紀に入ってから、新自由主義の成長戦略の限界が見えていた時期だったのに、日本は一周遅れで、模倣に走った。そこに問題があるのだろう。
 今後の日本の行く末を考える上で、実のところヨーロッパの研究が重要なのではないか。かつてのような社会のモデルとしてではなく、似たような問題に先に直面した先輩として、あるいは比較的に似た文脈の国として。確かに人口規模や社会構造ではそれなりに違いがあるが、同規模の国民国家として、アメリカ社会を参照するよりよっぽど参考になるだろう。今直面している問題、過疎や少子化新興国の追い上げ。英仏独あたりは、そのような状況に長い経験を持っている。それだけに研究の価値があるのではないだろうか。サッチャリズムや個々の政策ではなく、半世紀以上の長いスパンで、社会の変化を見つめれば何か出てきそうに思う。

 国民の関心は景気対策にあると言われるが、かつてと違い生産の回復が所得や雇用、個人消費の回復に結びつかない。原油などの資源価格の高騰によるコスト増を人件費で吸収している現状では、なまじ生産が増えれば働く時間が増えるだけ。国民はそういう景気回復を求めているのではない。

ここもどうだよなあ。ブラック企業が増えても仕方ない。