「天草に県唯一の市立公文書館:整理・保存 着実に:2万箱弱の7割 すでに目録化」『朝日新聞』10/1/11

 天草市には県内唯一の市立公文書館「天草アーカイブズ」がある。国や県で、ずさんだった公文書管理や情報公開のあり方を改めようと取り組みが進む中、足かけ8年になる天草アーカイブズの理念や運営は、国内でも「最先端」と専門家に評価されているという。    (佐藤幸徳


基本理念に3本柱
 年金記録の紛失などで国の公文書管理のあり方が問題になり、昨年6月には公文書管理法が成立。県でも不正経理や県営路木ダム計画をめぐる過去の文書が残っておらず、検証が十分できなかったことなどへの反省から昨年10月、行政文書の管理のあり方を検討する委員会が発足した。
 天草アーカイブズは旧本渡市が2002年4月に設立。基本理念に 1、市民による地域文化の創造 2、より開かれた市政の運営 3、情報資源を活かした高度な行政の実現、の3本柱を掲げる。06年3月に2市8町が合併し、天草市が業務を引き継いだ。
 旧五和町庁舎に事務所と閲覧室があり、職員ら14人が、自治体の行政文書を整理する「行政資料班」と、地域の古文書収集や保存を進める「地域史料班」に分かれている。
 昨年末、天草市五和町の五和書庫を訪ねた。旧五和町の公文書約1500箱が旧五和町学校給食共同調理場内に積まれ、職員ら5人がパソコンで目録の入力を進めていた。


水害で書庫浸水も
 文書は、合併で旧自治体から引き継いだ大量の公文書など全部で約1万9千箱。廃校となった市内の小中学校の教室など書庫6カ所で一時保管し、データベース化による整理や保存を進めており、すでに7割程度が終わった。天草市からも、文書の内容により1年−30年の保存期間を1年過ぎた公文書が、年に約千箱ずつ引き継がれている。職員の橋本竜輝さんは「旧自治体ごとに文書形態がばらばら。ルールを作り目録を作成するのが大変でした」と話す。
 アーカイブズ設立当初は、市役所内でも「対象は歴史的古文書」との誤解があり、実際はあらゆる公文書が保存対象になりうることへの理解を得るのに苦労したという。
 06年7月には水害で河浦町の書庫が浸水。約2100箱のうち約1700箱が泥水につかった。明治時代の土地台帳など歴史的に重要な公文書が35箱あり、カビが生えるなどの危険があったため、業務用冷蔵庫を借りてマイナス24度で冷凍保存。07年に福岡市埋蔵文化財センターの協力を得て真空凍結乾燥させ、なんとか復元した。


市民の利用増課題
 公文書は行政の仕事を検証し、地域の歴史をたどる上で重要な資料になる。
 利用したい人は市役所か旧五和町庁舎の閲覧室で申請すれば、整理済みの文書で、個人情報保護などの観点から市が公開可能と判断し許可した部分を閲覧したりコピーしたりできるという。利用は行政職員が主で、まだ市民が少ないのが課題。地域の歴史を記録した写真展や研究会を開いてPRに務めている。
 学芸員の本多康二係長によると天草アーカイブズの年間予算は約6千万円。多くが人件費で、経費は1300万円程度という。「公文書館は博物館と比べ費用がかからない。公文書は無料だし、建物は廃校校舎などを再利用すればいい。初めは文書がどんどんたまるが、きちんと選別すれば、残す必要がる文書は1割程度ですむ」
 金子久美子館長は「職員も、日々作る公文書は市民のもので、いずれ保存され公開されるという意識で仕事にあたることができる」と説く。安田公寛市長は「行政の公文書と、地域に残る歴史的な史料の保存が可能になった。市民への普及を進め、地域づくりのためのよい拠点としたい」と語る。
(専門家のインタビューをあす掲載する予定です)

 ここ評判は聞く所。実際、こういう施設を作るための予算をよく確保できたなという感じ。ハコは既存のストックを利用しているから初期費用が比較的安く済んだというのは大きいのだろう。ただ、保存環境としては、既存の施設はどうなんだろうか。虫損なんかの危険は大きそうだが。あと、ネット上での広報やOPACがあればもっといいのだが。
 あと、「初めは文書がどんどんたまるが、きちんと選別すれば、残す必要がる文書は1割程度ですむ」という談話も興味深い。紙背文書や襖紙文書なんかを見ると、いらないと思われるような文書が後々輝きを放つことがありうるわけだが。専門家的にはどうなんだろう。


自治体における公文書等の保存と管理
企業アーカイブへの提言 No.16 松岡 資明:こま切れ文化と記録